12-2「後門の狼」
佑心と一条は電車に駆け込んだ。心がこけそうになりながら乗ると、すぐに電車の扉が閉まった。
「それで、なんで、前野駅だって……?」
一条が息を整えながら聞いた。
「いいか?この憑依体出現と爆破騒ぎはパージャーを分散させるための陽動だ。魄崇氏の部屋に入った時にチラシを見たんだ。二月二日の前野駅前の反守霊教デモ。ターゲットはそこに集まる人たちだ!間違いない!」
佑心が興奮してそう一気に言い切ると、周りの客は三人を訝し気に見た。心は佑心の背中をそっと押して、人の少ない電車の奥の車両に移動した。
人のほとんどいない車両で三人は立って話し込んだ。
「それって、やっぱり
「そんな……」
憤る一条に対して、心は悲しそうに眉を下げた。
「いや――」
佑心の呟きに、二人は顔を上げた。
「それも罠だ。守霊教に疑念を向けさせるために、第三者がわざとそうしたんだ。」
「どうして……?」
心は微かな期待を込めて聞いた。
「
佑心は一度切った。二人はいつの間にか聞き入る。
「裏切り者ならともかく、信仰心の強い守霊教の人たちが、進んで魂の流れを乱すわけない……」
佑心は遠くを見るように目を細めた。
街中で、巨大な憑依体が青白い炎を吐いた。人体の三倍ほどはある。もう避難は大方済んでおり、憑依体の周りを囲むのはPGOから駆け付けたパージャーだけである。川口市で任務にあたる松本は赤のパージ能力を盾のように張り、吐き出される炎からを身を守った。他のパージャーも距離を取りながら、憑依体の攻撃を防いでいる。松本は振り返って叫んだ。
「警察ももっと下がらせろ!」(憑依体の威力が段違いだっ!元のゴーストの主がそれほど!)
「はい!」
日根野は憑依体の巻き起こす風に煽られながら叫び返した。その時、日根野の携帯がポケットで振動した。
大都会とは言わないまでも、それなりに栄えている前野駅。駅前に大勢が集まっていた。「守霊教の不当な勧誘 反対」という横断幕を掲げている人もいる。デモに参加する人々はそれぞれ声をあげたり、高台に上がってメガホンで演説を繰り返す。その中にキョロキョロとあたりを見回す佑心がいた。額には焦りの汗がにじんでいた。
(他の場所に爆弾を使ったってことはここでも爆弾が使われる可能性が高い!)
佑心は人ごみをかき分けて別の場所に走っていった。
心も汗をかきながら捜索を始め、ベンチの下を見た。
(佑心も確信ではないって言ってたけど、あるなら早く探さないと!)
一条も同じように植込みの中をかき分けた。
(ったってどこを探せばいいのよ!)
駅近くのモールの屋外広告上で、モモはあぐらをかいて空を見上げていた。
「あ……」
しかし突如何かに気づいたように、地上を見下ろした。楽しそうに口角を上げて、電話口に呼びかけた。
「計画変更だ。合流しろ…」
デモに参加する人々の足元に置いてある何の変哲もないリュック。一条の目がそれを捉えた。
(微かにパージ能力の残り余韻……あ、あれは!)
前野駅前の広場の半分は突如、爆音とともに炎に包まれた。地上では人々が粉々に炎にまかれ、建造物は粉々に吹き飛んだ。佑心と心もそれぞれ爆風を受けて遠方に飛ばされた。
炎が立ち煙がたちこめ、多くの人が倒れる中、うつ伏せになっていた佑心は目を薄らと開けて体を起こした。
(……舜は?……一条……は?)
その時、佑心は煙の中に人影を見た。その得体のしれない雰囲気に目を見張った。
(あ、あれは……なんだ⁉)
黒い影はだんだんと鮮明な人の形になり、やがて姿を現した。さらに大きく目を開いた。現れたのは、黒字に雑に刻まれたような花柄のフルフェイスマスクの男。背丈は少年のような小ささだが、佑心はそれが成人だと思った。フルフェイスの男は地面に転がっていた、激しく損傷したヒトの頭部をおおむろに持ち上げた。誰の頭か、女か男かも分からない。
身体を起こした佑心をチラ見すると、満面の笑みを浮かべた。
「生きてる?」
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