第3話 教会襲撃

 不審な気配を感じ取り、教会の外へ出た俺とミレイン。

 すると、ちょうどその気配の持ち主たちが姿を現した。


 数は男ばかり六人。

 武器を携えているし、何よりどいつもこいつも敬虔な信者って面構えじゃない。間違いなく懺悔や聖歌とは無縁の連中だ。


「あ? なんだ? どうして男がいる? 確か美人シスターがひとりで切り盛りしているって話だったよな」

「どうせ村人だろう? 構うことはない。邪魔をするなら痛い目に遭わせてやれ」


 教会の前だというのに、なんとも物騒な話し合いをしているな。


「おまえたち、教会へは何の用だ?」

「うちのリーダーがここのシスターを気に入ってなぁ」

「パーティーに入ってもらおうと誘いに来たんだよ」


 誘いに、か。

 そんな穏やかな空気じゃないな。

 あれはもう強制的に拉致しようとしている。

 というか、こいつら冒険者だったのか……確か、ここから馬車で二時間ほど移動した先に冒険者ギルドのあるリゾムって町があったな。そこから流れてきた連中か?

 しかし、あそこを拠点としている冒険者たちの中には知り合いもいるが、そこまで荒れた町じゃなかったはず。

それに、ギルドマスターのライソンは昔からよく知る酒飲み仲間だ。

しっかりした人で、なかなかのやり手だったから次期町長の筆頭候補なんて囁かれてもいたな。

一番の功績は評判の良い有力なパーティーを数組招き入れ、同盟を結び、その手の連中を厳しく取り締まらせていたことだ。

 あれで町民や冒険者たちから絶大な支持を得たんだよな。

でも、それが機能しなくなったってことは……もしかしたら、その同盟にヒビが入って荒れだしたか?

 アルゴたちとパーティーを組んでいた町もそうだったが、最近はどこも治安が悪くなってきているな。

それを改善するために救世主パーティーっていうのが国で認められるようになったわけだが……アルゴたちを見ていると、下手に権力を与える方がつけ上がらせて大変な事態を招きそうな気はする。

 ともかく、このガラの悪い連中にはお引き取り願おう。


「悪いが、シスターにはシスターの仕事がある。それに、彼女は冒険者をするようなタイプじゃない」

「だが、シスターっていうくらいだから回復や防御系の魔法は使えるだろう?」

「そもそも冒険者としての実績は求めちゃいないんだよ」

「疲れて帰ってきたら癒してもらいたいわけだ――身も心もな」

「っ!」


 ミレインの顔つきが変わった。

 こいつらの醸しだす雰囲気は、彼女を追いだした救世主パーティーと似ているからな。アルゴから追放を言い渡された時はショックを受けていたが、今はもう吹っ切れて逆にそれを力に変えている。


「よく見たらそっちの女もなかなかイケてるじゃねぇか」

「ついでにそいつも連れて帰ればリーダーの株も上がるってもんだな」

「そいつはいい。そういうわけだから――おっさんは引っ込んでな!」


 ひとりの男が突然殴りかかってくる。

 だが、あまりにも大振りだったので難なくかわすことができた。

 

「こいつ!」


 男は避けられたのが癪に障ったのか、むきになってなおも攻撃を仕掛けてくる。だが、一発一発がかなり遅く、逆にタイミングを取るのが難しい。とりあえず、最後は軽く足払いをしてコケさせた。


「や、野郎!」


 これに他の男たちが激高。

 それぞれ武器を持って襲いかかってくる。

これ以上教会に近づけさせるわけにはいかないと迎え撃つつもりでいたが、


「はあああああああああああああっ!」


 俺よりも先にミレインが男たちの前へと立ちふさがり、あっという間に蹴散らしていく。


「な、なんだと!?」


 俺がコケさせた男は唯一その攻撃から免れたわけだが、ミレインの圧倒的な実力を目の当たりにして腰が抜けたらしく、なかなか立ち上がれないでいた。

 そんな男へ、俺は静かに語りかける。


「おまえたちはリゾムの町の冒険者か?」

「っ! へ、へへ、そうだ。そこには俺たちの仲間がザッと百人はいる。おまえたちはそいつら全員に今後一生狙われることになるぞ!」

 

 一生とはまた大きく出たな。

 この場合、ただ強がっているだけという見方もできるが……どうにもリゾムの町の現状が気になる。


「覚えていろよ!」


 男たちはちょっと前にも聞いたような捨て台詞を吐いて帰っていった。

 実害がない分、騎士団に差し出してもすぐに解放されるだろうからな。

 いっそ、その巨大冒険者パーティーを一網打尽にした際に巻き込まれてくれた方が確実に牢獄へ送れるだろう。

 それと、今回は被害を未然に防ぐことができたが、今後も他の連中が狙ってくるかもしれない。最悪の場合、この村にも大きな悪影響を及ぼすかもな。

 そうなると、このまま黙っておくわけにはいかなかった。


「行ってみるか……冒険者の町へ」

「えっ? 冒険者になるんですか? それなら私もお供します! 前々からちょっとやってみたいって思っていたんですよ!」

「うーん、冒険者への転職というわけじゃないんだが、選択肢のひとつとして考えておくか」


 とりあえず、次の目的地は決まった。


「明日の早朝から冒険者都市のリゾムを目指す」

「分かりました!」


 ミレインは元気よく返事をする。

 どうやら過去のことは完全に吹っ切れたようだな。

 久々に思いっきり体を動かせてスッキリできたのもよかったみたいだし。


 ……そういえば、俺とミレインが抜けたアルゴたちのパーティーはうまくやっているだろうか。

 今さら気にする必要もないのだけど、実績不足で救世主パーティーの称号を剥奪されそうになったらどんな手を打ってくるのか……そこだけがちょっと気がかりだな。

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