病院に行ってきた。

 前回行きそびれてしまったから、今回はスマホのアラームを15分間隔でセットして無理やり起きた。仕事を辞めて以来、久しぶりにアラームを使ったが、脳を削られるような、神経をすり減らされるような音は相変わらず嫌いだった。


 少し早く起きて、なにをするでもなく、ベッドの中でうたた寝を繰り返した。この時間が人生で一番好きかもしれない。

 

 そのまま遠方にいる友人宅へ行く予定だったので、泊まりの準備をして家を出た。普段ならなるべくカバンを軽くしようとするが、外泊のときはなるべく重くないと安心できないのは不思議な気がした。

 

 病院まではバスを使った。他の乗客はほとんどいなくてガラガラで、運転手さんは温厚そうに笑っていた。忙しない日を過ごすなか、この時間のバスは運転手さんにとってもオアシスなのかもしれない。


 途中、降車場を間違えた乗客がいた。運転手さんは優しい声のまま、「このまま乗っていたら着きますよ」と教えていた。


 バスが着席を待って緩やかに発進する。空いていてよかった。


 病院には早めについた。こういうところで社会性が試されていると思う。遅刻をしないからまだ適合できるのかもしれない。前はすっぽかしたけど。

 無職のくせに社会性を気にするあたりにみみっちいプライドが現れている。これが生きにくい原因だとも思う。


 待ち時間は長かったが、実際の診察はすぐ終わった。先生は髪を切ったことにすぐ気づいた。しばらく会っていなかったのに、覚えていてくれたことが嬉しかった。

 そういう手管なのかもしれない、と性格の悪いことも思って、自分のいやらしさに凹んだ。


 前よりは良くなっている気がする。親には病院がいるのか?と聞かれてそれが嫌だった。今は自宅療養しながら小説を書いている。少しではあるけど売上が立っている。


 そんなことを話して、前と同じ処方箋を出してもらって病院を出た。先生に昼夜逆転しないようにと注意された。ごもっともだ。たぶんそこを直せばもう少しメンタルはマシになるだろう。


 最寄駅に移動するため、またバスに乗った。今度は少し混んでいた。乗降が多かったので、バスはよく停まった。みんなこれからどこか遠出をするのだろう。オシャレをしている人が多かった。みんな大切な何かのためにバスに乗っているのだと思うと、悪路もそんなに悪くない気がした。

 

 バスから電車に乗り継いだ。重たい鞄がそろそろ邪魔になってきた。特に一人だとトイレの時に困る。混雑している中を肩を縮めながら歩く。行き交う人たちがみんな楽しそうに見える。もっと背筋を伸ばして堂々と歩きたい。


 新幹線の切符を久しぶりに買った。隣の券売機で購入している友達連れが楽しそうにしていた。肩を縮めたままの自分が惨めだった。自分も友達に会いに行くはずなのに、その前に気分を沈ませる必要なんてないのに。自分の思考が恨めしい。なんとなく先生の「死なないと約束してくれますか?」という言葉を思い出した。


 一人で歩いているとき、イヤホンで音楽を聴いていることが多い。自分にとっての散歩は音楽に浸ることができる時間だ。

 座って歌詞カードを追いながら聴くのも好きだが、くさくさした気分を抱えながら音楽を聴くのも好きだ。そういうときは同じ曲をリピートすることが多い。


 今日はBUMP OF CHICKENの『アカシア』を流していた。とてもポップで、言葉の一つ一つが元気をくれるが、それが無理やり元気付けるような感じではなく、等身大でいいんだよと言ってくれているような気がして、虚勢であっても元気になれる気がする。


 冷たい雨に濡れるときは

 足音比べ騒ぎながら行こう


 君の一歩は僕より遠い

 間違いなく君のすごいところ

 足跡は僕の方が多い 

 間違いなく僕のすごいところ 

 真っ暗闇が怖いときは 

 怖さを比べふざけながら行こう


 このフレーズには特に胸が詰まる。寄り添ってくれている気がする。失敗だらけでも笑える気がする。


 人間性が腐っているとき音楽を聴くのは、救われている、と強く思えるからかもしれない。音楽に、言葉に救われたいから、気分を沈めているのかもしれないと思うこともある。


 新幹線に乗ってからは歌詞を見ながら何度も聞き直した。うっかり泣いてしまいそうだったけど、何度も聞いた。「アカシア」で歌われている関係性こそ自分の理想だと思った。

 こういうとき、人目を憚らず泣けたらいいのに、社会性が邪魔をした。それが曲への冒涜みたいで悔しかった。


 一旦、ここで終わる。

 友人と会ってからの話はまた後述する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る