第28話 ゼルフィーネの話 「やよやよ」の秘密


                   *


「少し長い話になるわ」と、ゼルフィーネが言った。

「でも、光の加護を授けるには1時間ぐらいかかるから、時間つぶしにはちょうどいいかもね」と、ゼルフィーネ。

「その話、つきあうよ」と、シルウェステル。

「あなた方3人の過去については、私もよく知ってるけどね。私の場合は、中堅ギルドでの悲劇だったの。私、この「聖人」「竜人」の仕事について、向いてたのかしら。世界を呪った私が、世界を守る役目につくんですもの、皮肉だわ、と思ったこともあった。でも、兄のとある言葉が、私を支えてるの」と、ゼルフィーネが言った。

「素敵だね。その言葉、教えてほしいな」と、シルウェステル。

「じゃあ特別に教えてアゲル。『闇もあなたに比べれば闇とは言えない。夜も昼も共に光を放ち 闇も、光も、変わるところがない。夜も光が私を照らし出す』。あなた、知ってる?」と、ゼルフィーネ。

「聖書の一節かな?そう聞こえたが」と、シルウェステル。

「そうよ。私の家もまた、リラの国だったんだけど、敬虔な十字教の家庭だったの。特に、兄は神を信じる人でね。信心深い教徒だったわ。成績も優秀でね!」と、ゼルフィーネ。

「要は、夜や闇のような暗い状況下でも、絶望するな、希望はある、みたいな意味だろ??」と、シルウェステル。

「そうよ」と、ゼルフィーネが言った。

「私たち兄妹間では、この4行の言葉を、略して『宵闇の光』って呼んでたのよ。勝手に名付けたの。『宵闇の光を忘れるな』と言いながら、両親の仕事を幼いころから手伝っていたの。この一節は、父が兄に伝授したんだって。それを、兄が『宵闇の光』と名付けたの」と、ゼルフィーネがくすっと笑う。

「素敵だな」と、シルウェステル。

「俺も手帳にメモしようかな」と言って、シルウェステルが胸ポケットをさぐる。

「私、神様は信じてないけど、主は信じてるのよ」と、ゼルフィーネが朗らかに言った。

「だって、宵闇の中でも、主は私を見てくださっていると、私は兄と弟と、そう信じてたから。今でもね」と、ゼルフィーネ。

「なるほどな、気持ちは分かる。君も知っての通り、俺は前世賢者だったが、神々と会ったことはあっても、主と呼ばれる主・女神イザヤ神とは言葉を交わしたことも、会った事もない」と、シルウェステルが言った。

「そう・・・」と、ゼルフィーネ。

「それと、君の言ってた、『あの人』って、誰??」

「私の婚約者だった人よ」と、ゼルフィーネ。

「私と彼は、愛し合っていたわ。ギルドに入る前からの知り合いで、家も近かったの。どこか大人な雰囲気の人でね、兄を失ってからも、そして弟を失ってからも、私を支えてくれたの。精神的にね!」と、ゼルフィーネ。

「弟さん、亡くなったのか・・・」と、シルウェステル。

「・・・ええ、私が24の時、殉死されたわ」と言って、ゼルフィーネが左目から一筋の涙を流した。

「これで、『やよやよ』を知ってる人は、私一人になってしまってね」と、ゼルフィーネ。

「やよやよ、って何??」と、シルウェステル。

「さっき私が言った言葉・・・聖書の一節の頭文字をとって、よく『やよやよ』と略して呼んでたのよ。『宵闇の光』もそうだけど」と、ゼルフィーネ。

「そ、そうか・・・ずいぶんとユニークだな」と、シルウェステル。

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