第二章 姉と妹

第15話 エイダとブレンダ

 この地区には一つしか教会がなかった・・・これは、セレスの夢の中である。前世の夢を見ていた。

 しかも、修繕金が寄付金から入らず、雨漏りもしていた。神父様は一人きり、老人であった。

 貧しい割にはだだっ広い教会であった。この老人神父は、10年前、孤児を引き取って、教会で育てていた。名を、エイダとブレンダと言った。二人は姉妹であった。

 姉のエイダは、しっかり者の姉で、3歳年下のブレンダを守ろうとしていた。それは、神父の老人が二人に手を差し伸べた時からずっと変わらず、であった。

「本当はもっとたくさんの孤児を引き取ってあげたいのじゃがのう・・・」と、リュディガー神父がため息をついた。

「この村は貧しく、寄付をできる家も少ない」

「希望のない街だわ、本当に」と、エイダがぶっきらぼうに言った。

「そんなことはない」とリュディガー神父が言って、当時12歳だったエイダの頭をなでた。

「君たち子供が、未来を変えるこの国の希望なのだ。わしはそう信じておる。だからこの職業を続けているし、教育こそ国を変える礎、とわしは思う」と、リュディガー神父が確固たる意志でそう言った。エイダは、この神父を尊敬もし、また半面、幼すぎて意味がよく分からなかった。同意しかねる点もあった。

「ブレンダは、すっかりこの教会にもなじんで、村のみんなのために、って、清掃とかの奉仕活動をしてますわ、神父様。けど、わたくしは反対です。ブレンダはシスターに向いてるかもしれないけど、貧しいこの村では、もっと自分のこと、自分の幸せについて考える権利があるはずよ。特に女性なら」と、22歳のエイダは言って、19歳になり、成人となっているブレンダを不満そうに見、神父様にそう言った。

「まあまあ、エイダ、確かに君の考えも一論だ。人は皆自分の幸せを追い求めるものだからね。だが、誰かが犠牲とならねばならぬ時もまたある。わしらこの教会の者は特に、その教えを主から教えていただいておる。ブレンダはよく成長したよ」と、神父が言って微笑んだ。

「だがまた、エイダ、君もまた美しく成長し、妹想いの普通のいいお姉さんになっておる。私は君ら姉妹を助けてよかったと心から思っておる」と、リュディガー神父は言った。

 エイダが22歳、ブレンダが19歳の時、ことは起きた。リュディガー神父が亡くなったのだ。

 二人はさめざめと泣いた。二人の育ての親であり、いつも優しく二人を見守っていてくれた神父様がなくなり、二人は絶望に近い心情を抱いた。

「絶望してはいけない」と、エイダが涙を拭きながら言った。

「・・・リュディガー神父の口癖よ」と、エイダ。

「そうね、姉さん」と、ブレンダが言った。

「でも、涙が止まらないわ。私、どうしたらいいのかしら。明日は村をあげてのお葬式だけど、私、平常心を保てるかしら」と言って、ブレンダとエイダは抱き合った。

 その翌日・・・その晩は、リュディガー神父の遺体が入った棺に、二人はすがりついてずっとそばにいた・・・二人は、小雨の降る中、葬儀の準備をした。

 広い教会で、シスターたちは、エイダとブレンダ含め、5人しかいなかった。

 村人の参列者は多かった。神父様の開く教会学校で、子供がお世話になったという人が多かったからだ。せめてもの恩返しということで、ほぼ全員の村人が葬儀に参列した。

 しとしとと雨の降る中、参列者は押し黙っていた。5人のシスターたちは、弔いの讃美歌を歌いながら泣いていた。

 やがて、村で唯一魔法を使えた、リュディガー神父が、この村を外界から護っていてくれたことが分かる日が来た。

 山賊の一派が、神父の死後半年後、この村を襲った。神父のかけていた結界のようなものが解けたのだ。

 村人は、包丁や斧、農作業用具など、戦える人はみな反抗しようとした。

「皆さんは逃げるのです!!」と、5人のシスターのうち、エイダが叫んだ。

(ここははったりで・・・・)と、エイダは思った。

 通りがかりの山賊の一派が、村の入り口に来たとき、エイダは一人立ち向かった。

(だが、誰かが犠牲とならねばならぬ時もまたある。わしらこの教会の者は特に、その教えを主から教えていただいておる。)という神父様の言葉を思い出しながら。

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