第一章 封印の国のリアン

第10話 兄妹

第一章 封印の国のリアン


「リアン、こんなところにいたのか」

 その声に、可憐な少女が振り返った。16歳ぐらいの容姿に見える少女。封印の国・ハートフォードシャーの国の王族・第4子のリアンノン・・愛称リアン・・・が、話しかけてきた兄の方へ笑顔を向けた。

「ハインミュラーお兄ちゃん!!」と、リアンノンが立ち上がった。座って、うさぎに餌をあげていたのだ。

 リアンノンは、なぜか、おそらく女神アテナ神の思し召しだろうが・・・と言われていたが、前世の記憶をなくして転生していた。ただし、アレクシスと、クレドの二人の賢者は、記憶ありで転生していた。

 ハインミュラーお兄ちゃん・・・それこそ、前世のアレクシスであった。

 時はイブハール歴4021年であった。悲劇の3人が転生してから、実に852年がたっていた。

 ハインミュラーと、クレドの生まれ変わりである「シルウェステル」は、転生してから20年ほどたって、リアンノンに前世の記憶をこっそり簡単に魔法で授けていた。他の皆には、詳細に伝えていた。二人の判断だった。

 そして、その資質から、悪神シェムハザを封印するキーとして選ばれた「大地の巫女」は、このリアンノンであった。そのリアンノンを護る騎士が、シルウェステルと決められていた。第4子に転生していたリアンノンのいとこが、そのシルウェステル・・・通称“悲劇の竜騎士”であった。

 リアンノンにもできることが一つあった。それは、彼女にしかできない魔法のようなものであった。同じく竜人一人につき一回のみ、リアンノンの聖なる加護をかけることができるものであった。

 それは、「リアンノンの慈愛の加護」と呼ばれていた。守護の加護しかかけられなかった。人を傷つけるような加護はかけられなかった。

 聖人として転生してのち、当初はリアンノンにあまり興味を示さなかったハインミュラーであったが、次第にリアンノンの天真爛漫なところに惹かれていった。前世では、アイリーン・ラッセルとして、明るいというよりは暗い性格だったのを知っているから、なおさらだった。

「リアン、明日がいつか分かっているのかい。一年に一度の、12聖人の封印の儀式の日でしょ!君、段取り忘れてないよね??」と、ハインミュラーが言った。

「ウサギに餌をあげてる場合じゃない、ってところでしょ、お兄ちゃん」と、リアンノンが平然と言ってのけた。

「・・・」

「はいはい、私も852回目の儀式なら、さすがに忘れてないわ、お兄ちゃん!まあ、今夜、ちゃんと段取りの表は見ておくわ」と、リアンノンが言った。

「リアン、愛してるよ」と言って、ハインミュラーがリアンノンの傍にしゃがみこんで、微笑んで言った。

「前世の私に対して言ってるわけ・・??」と、リアンノンが怪訝な顔をして言った。

「つまり、アイリーン・ラッセルの私に・・・??」

「何言ってるんだい、俺は明るくなった君に惚れたんだよ」と、ハインミュラー。

「そう。でも、私の相手は、いとこのシルウェステルだから。そう決まってるから。ごめんね、お兄ちゃん」

と、リアンノンが平然と言ってのけ、くすっと笑った。

「あ、笑ったな」と、ハインミュラーがむっとなる。

「キャハハ・・・ごめんごめん、お兄ちゃん」と、リアンノンが無邪気に笑った。

「何話してるんだい??」と、その時、思慮深い声がした。

 リアンがはっと振り向く。長身の体に、優男の顔。いとこのシルウェステルだ。

 彼女は、転生してはじめてシルウェステル・・・・すなわち元・クレド賢者様に会った時のことを思い出していた。


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