第6話 生き延びて!

 そうこうしているうちに、一週間もせず、その「助っ人」という賢者が来たのだった。

 緑色のコートに、帝国の紋章のついた魔法使いであった。クレド賢者とは、だいぶ服装が違う。

「クレドさん・・・アンタ、連れを一人連れてるって言ってたけど、その子、服装からして、修道院の方・・・??」と、その助っ人賢者が言ったのだった。

「そうそ、アレクシス。こちら、アイリーン・ラッセルさん、フレズノの町の元シスターさん。あ、今も一応シスターさんなのかな、ごめん、俺にはシスターさんのことはよくわからない」と言って、クレド賢者は軽く笑った。

「こんにちは、アレクシスさん・・・」と、アイリーンが言って、お辞儀をした。

 アレクシス賢者は、アイリーンを一瞥し、ちらっと見ると、すぐに顔をそむけた。

(ふぅ~~ん、これはクレドさん、さてはこの子に惚れたな)と、アレクシスには分かったのだった。

「馬なら2頭、連れてきましたよ、クレドさん」と、アレクシスが言った。合計2頭だ。

「サンキュ、アレクシスさん!じゃあ、アイリーンは、俺の前に乗って!」と言って、クレドがアイリーンを抱っこして、馬に乗せてあげた。

「クレドさん、その小娘ちゃんに、惚れたんでしょ??」と、アイリーンには聞こえないように、そっとクレドの耳元で、アレクシスが言ったのだった。

「ま、そんなところ」と言って、クレドが微笑む。

 3人は、馬に乗って、山道や街道を進んだ。あと1週間ほどで、皇国を抜けられるはずだった。だが、その時、クレドのもとにも、アレクシスのもとにも、神々からの手紙が来たのだった。

『リマノーラから、無人の爆撃機が続々と送られてきている。即撤退せよ。逃げよ』との仰せだった。

「逃げろ、っつってもなぁ・・・・」と、クレド。

「そうっすね、クレドさん」と、アレクシス。

 3人とも、逃げて来た退路の惨状を想像し、ぞっとした。みんな、阿鼻叫喚の地獄絵図になっている、というのは、同じく東、もしくは南東に逃げる人々の列でいっぱいだった。

「街道じゃ身動きとれねーな」と、クレドは思った。

 仕方なく、3人は山道に入り、いそいで馬を駆らせた。

 だが、遅かった。その晩のことだった、遠くの街道から、爆撃機による空襲の音が聞こえた。その音があまりにすさまじかったので、馬は驚きいななき、コントロールを失った。

 しょうがなく、クレドは馬を魔法で眠らせ、気を失ったアイリーンを連れて、アレクシスと一緒に、これからどうする、と話し合った。

「もうこれ以上逃げても無駄でしょう」と、アレクシスが言った。

「この森の中も、一応道は通ってる。いずれ爆撃機は来る。あとは、死ぬのを待つだけでしょう」と、アレクシスが静かに言った。

 クレド賢者が、悔しそうな顔を一瞬した。

「せめてこの子だけでも、逃がしたかったんだけどな・・・。この子、俺の死んだ妹にうりふたつでな、アレクシスさん。なんとかしたかったのよ」と、クレドが涙を軽く流しながら言った。

「クレドさん・・・」と、アレクシスがクレドの肩をポンポン、と叩く。

「あの呪文を使えばいいのでは・・・?」と、アレクシスが言った。

「正直、この小娘に、それほどの価値があるかは、俺にははかりかねるが・・・ほら、魔法使い二人分の誓いを使えば、一人の人間を、丸三日、魔法の盾のような中に隠せる例の呪文ですよ」と、アレクシス。

「なるほどね」と、クレドが涙をぽたぽたと流しながら言う。

「この子は幸いまだ寝ている。それに、どうせ、このままでは3人とも死ぬだけです。なら、この子だけでも救いませんか、クレドさん」と、アレクシス。

「それも悪くないね。正直、生き延びれば、俺、この子を妻にもらいたかったんだけどね」と、クレド。

「そうっすか・・・」と、アレクシス。

「俺ら二人とも賢者だから、正直、丸三日どころか、1週間は魔法のバリアの中に隠せますね」と、クレド賢者。

「ええ、誰からも見えない」と、アレクシス。

「あの木のうろの中にしましょう」と、クレド賢者が言った。

「早く。急いで。もう時間がない」

「そうっすね」と言って、アレクシスがアイリーンをお姫様抱っこして、巨木の木のうろの中に隠す。

「クレドさん、急ぎましょう」と言ってる間に、爆撃機の爆風の音が聞こえてきて、人々の叫び声が聞こえて来た。

 二人は、爆風にしばし押し倒され、地面になぎ倒された。

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