第5話 助っ人

「いいでしょう、ね、皆の者」と、シスター長が振り返って言った。アイリーンの同僚が、笑顔で二人を見送ると言い出した。

 残念ながら、クレドがつないでおいてと頼んだ馬は、何者かによって盗まれていた。

「これはうっかりだな・・・・盗まれない鍵の呪文をしておくのを忘れた」と、苦笑するクレド賢者。

「ま、いいか、・・・じゃあ、徒歩になるが、行こうか、アイリーン!!」と、クレド賢者が、アイリーンに手を差し出す。

 アイリーンが、その手をそっと取る。

「お幸せにね、アイリーン!!」と、同僚のシスターたちが口々に叫ぶ。

「ありがとう、みんな!」と言って、アイリーンはクレド賢者に手をひかれ、小さなカバンを手に、フレズノの町を後にしたのだった。

「賢者様、」と、町を出たところで、アイリーンがクレドに言った。

「ン??何、アイリーンちゃん??」

「私を妻にするって・・・本気ですか??」と、アイリーン。

「ああ、あれな・・・冗談、と言いたいところだけど、安心してくれ、無理やり結婚してくれ、なんて言わないから!俺はそういう男じゃないよ」と、クレドが朗らかに言った。

「ああいう方が、手っ取り早いだろ、説得するにせよ」と、クレド。

「そ、そうですね・・・」と、アイリーンがややあきれ顔をする。

「でも、俺は君に少し惚れてるよ。会ったばかりなのにな」と、クレド賢者が、少し照れながら言った。

「は、はい・・・」と、アイリーン。

 こうして、二人は徒歩の、メルバーンの国へ向かう旅に出たのだった。

 たまに、食料欲しさから、半ば盗賊と化した人から、追剥に会いそうになったことも何度かあった。それでも、クレド賢者が、いつだって魔法を駆使し、

「アイリーン、俺の傍を離れるな。合図があったらすぐにあの茂みに隠れろ」と言っては、助けてくれたのだった。

 そんな中、次第にアイリーンは、本当にクレド賢者に惹かれていった。

 クレド賢者は強かった。一人でも、10名以上の追いはぎ集団から、アイリーンを守ってくれた。

「賢者ならこんなの朝飯前なんだがな」と、クレドがシャイン・ソードを消して言った。

「アイリーン、怪我はない??」と、クレドが言った。

「は、はい、賢者さま・・・」と、アイリーンが言って、木の後ろから出て来た。

「早くこんな戦争、終わっちまえばいいのにな。国内がどんどん疲弊して、人々の心も荒んでる。このままじゃ、ガーレフ皇国も、リマノーラも、共倒れだろうな、半ば」と、クレドが悲しそうに言った。

「俺の仲間5名は、4名がメルバーンに帰ったそうだ。近くにいる仲間1人が、馬を連れて俺の助っ人に来てくれるらしい。これで、もう安心だからな、アイリーンちゃん」と、クレドが微笑んで言った。

「徒歩だとな、どうしてもこうなるんだ」と、クレド賢者が言った。

「賢者様、あの、助っ人って・・・??」

「ああ、俺の戦友みたいな方でな。信頼のできる方だ」と言って、クレド賢者がにっと微笑む。

「賢者・・・なんだがな、まあ、同期なんだ」と、クレド。

「へぇ・・・素敵ですね」と、アイリーンが言ったのだった。

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