第3話 クレド賢者のさそい

そう言って、クレドはアイリーンをじっと見た。茶色……というより、金髪に近い栗色のふさふさの髪に、緑の目。身の丈は157cmといったところか。

「なら、俺と来ないか。俺、君みたいな妹が一人いてな、放っておけない。俺と来る方がまだ安全だろう、こんなリマノーラにも近い街にいるよりかは」と、クレドが言った。

「・・・・しかし・・・」と言ったアイリーンの手をとり、クレドがグイッと引っ張って、強引にアイリーンの頬にキスをした。

「な?言うこと聞けよ、シスターさん、悪いこと言わないからさ!」と、クレド賢者。

 アイリーンは、正直迷いが生じてしまった。クレド賢者は、(もうすぐ大賢者になるらしい)、風貌もよく、伊達男風だった。というより、優男だった。

「・・・」アイリーンは揺れた。

「君にだけでも、逃げてほしいんだ」と、クレドが言った。

「そこで何をしているのです?」と、そこで声がした。シスターの先輩の声だ。

「あ、ベレニス先輩・・・」と、アイリーンが思わず声を出す。

「いえ、シスターのお一人殿、ただ単に俺が提案しただけです。この子を、俺の弟子にしたいってね」と、クレド賢者が朗らかに言った。

「は??」と、ベレニスが手を腰に当てて言う。

「あとですね、えーと・・・ベレニスという方でしたかね、あとで皆さんにお話があります、率直に言うと、今すぐ皆さんには国外に退避してほしいのです」と、クレドが言った。

「国外に??しかし、そもそも逃げたくても、女子供だけで、どうやって逃げるというのです」と、ベレニス。

「いや、だからね、俺ら賢者は、神々と接触できるのは知ってますよね?それでね、予言をする神々がいましてね、そいつがね、近々このガーレフ皇国に、新兵器が送り込まれる、って言ってるんですよ。信じてくれますか??」

「何をそんな突拍子もないことを」と、ベレニス。

「みなを無駄に不安と混乱の渦に陥れるだけです。賢者様。それは誰にも言ってはなりません。私たちは、村の男性が帰ってくるのを待つだけです。そもそも、どうやって逃げるのです」

「そ、それは・・・歩いて行くとか」

「食料は?!?ろくにないんですよ、みんないっぱいいっぱいで!」と、ベレニスが殺気だっていう。

「・・・」さすがのクレド賢者も、何も言えない。

 だが、アイリーンは、クレド賢者の言うことを信じていた。

「アイリーン、あなたにはもう少しそこにいてもらってもいいですが、晩御飯の支度までには戻りなさい。いいですね?今日は、夕飯の支度の責務は免除しますからね・・・」と言って、ベレニスはやれやれと言って出て行った。

「な、アイリーンさん、」と、ベレニスが言った後で、クレドがアイリーンに言った。

「俺についてこない??俺は、これからまっすぐメルバーンに戻る予定なんだ。ここまで、皇国の東端まで来たからね。どう??君のご家族だけでも、逃がすお金なら、俺が少し持ってる。そのお金で、食料を食いつなぎつつ、逃げてもらうってのはどう??」

「・・・村の皆が、私の家族がいなくなったことに、不審がらないならいいのですが、」と、アイリーンが呟く。

「・・そうだな、それもそうだな。なら、君と俺だけでも、逃げないか」と、クレド賢者が言った。

「・・・・でも・・・」

「神様なんていないんだよ、アイリーン。いや、いるんだ、神々はいる。だけどな、こんな地獄みたいな日常を救ってくれる本当の意味での神様なんて、一人もいやしないんだ。いくら主、主とあがめてもな」と、クレドが俯いて言った。

「・・・・」アイリーンには返す言葉もなかった。アイリーンの父も、兄も、出征して、戻ってきていない。父親の遺骨も、切れ端というか、一部分のみ戻って来ただけで、兄ときたら、安否すらわからない。

「私は主を信じています」と、アイリーンは言った。

「けど、それ以上に、あなたの目を信じています、クレド賢者様」と、アイリーンが言った。

「・・・そう??なら嬉しいな」と、クレドが微笑む。

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