第13話 後編

 あの時、俺は大貴のことを本気で殺してやろうと思った。

 幸希のためなら、俺は人殺しになっても構わなかった。


 しかし、「殺しちゃダメ」と俺に縋る幸希の姿を見た時、俺は我に返った。


 血に飢えた獣のように、大貴を殴る俺――。

 あんな姿、幸希にだけは見られたくなかった。


 幸希にだけは、恐れられたり、軽蔑されるのが怖かった。


 血まみれになった自身の手を見た時、俺は「こんな手で幸希に触れてもいいのだろうか?」と、彼女へ手を伸ばすのを躊躇った。

 こんな汚れ切った手で、今までも、これからも、彼女に触れてもいいのだろうか。


 だけど、幸希は「私は、大丈夫だよ」と言って、俺の手を握ってくれた。

 彼女はいつだって、俺の味方でいてくれる。


 俺が抱きしめると、幸希は泣き始めた。

 そんな幸希を見て、俺は「彼女を一人残して刑務所へなんて行けない」と思った。


 俺はもう、ヤクザとしてのを失ってしまったのだ。

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