第7話 後編

「ああ、くそ……」


 俺は路肩に停めていた車に乗り込むと、舌打ちをしながら項垂うなだれる。

 まさか大貴と再会することになるとは、夢にも思わなかった。

 あいつの顔を見た瞬間、ガキの頃の惨めな記憶が蘇って、はらわたが煮えくり返りそうになった。

 いや、はらわたが煮えくり返りそうになったのは、大貴と再会したのが原因ではない。あいつが、幸希と話していたのが原因だ。それも、あんなに楽しげに――。


 ――あっ、ご、ごめん。


 俺はふと、先ほどの幸希の申し訳なさそうな表情を思い返す。

「あんな顔、させるつもりなかったのに……」

 幸希は明らかに罪悪感を抱いている様子だった。

 俺は彼女に悪いことをしてしまったと、後悔する。


 俺が苛立っているのは、単なる嫉妬だ。

 ガキの頃、ずっと嫌いだった大貴と、最愛の幸希が親しげにしているのが許せなかっただけだ。


 ――中学生の時の大貴くんは、真面目で優しい子だったから、結構仲良かったんだよね。


 中学の頃の大貴も、幸希も、俺は知らない。

 小学生の頃は傲慢で弱い者いじめが好きだった大貴は、中学に上がると真面目な人間になっていたようだ。あの様子だと、普通の社会人として生きているのだろう。あんな糞野郎でも、更生できるらしい。

 それに引き換え、俺は中学に上がると非行に走り、果てにはヤクザになってしまった。

 

 カタギとして生きている大貴と、ヤクザとして生きている俺を比較して、俺は勝手に惨めな気持ちになる。

 

 もしも、俺がカタギとして幸希と再会できていたら、彼女はもっと幸せだっただろうか。

 

 そんなどうしようもない「タラレバ」を、俺はもう何百回と考えている。

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