第4話 「雑草とはなんだろう。その美質をいまだ見出されていない植物である。-ラルフ・ウォルドー・エマソン-」

「よし、それじゃあ魔物を探すぞ!」


「おー!」


 俺達は、スライムパンを食べた後、外に出て魔物を探していた。ダカラの『絶対美味』が敵を倒した時にも適応されるのかどうかを試すためだ。


「ダカラ、剣は使ったことあるか?」


「仮想空間で剣を使って戦うVRのゲームをやってたから使い方は分かるよ。でも、重くて持てないんじゃないかな?」


「使い方は分かるのか。それで、重さの方は心配しなくて大丈夫だ」


 俺はそう言い粒子を集めてパーティクルソードを作った。俺がいつも使ってるパーティクルソードも充分軽いが、粒子の量を変えて更に軽く作ったから、ダカラでも余裕で持てるはずだ。


「はい、これ」


「わあ!すごい!」


 ダカラは、俺がパーティクルソードを作っているのを見て、凄く興奮している様子だった。


「試しに振ってみてくれ」


「てい!やあ!」


 可愛い掛け声で叫びながら、ダカラは何回か剣を振った。俺はそこまで剣術に詳しい訳ではないが、なかなか上手く出来ていると思った。仮想空間で練習をしたら現実世界でも上手くなるのか。


「すっごく軽いよ!」


「それは良かった。それじゃあ、魔物探しを続けるか」


「あのー。ミューさん?」


「なんだ?」


「剣を振れるのは良いんですけど、それだけじゃ危なくないですか?もし攻撃なんてされたら...」


「その件も安心して俺に任せろ!」


 ヤクルトはダカラのことがとても大事なのだろうと、昨日今日と話してきてよく分かる。まあ、戦闘向けの能力ではない能力で魔物と戦うって言ったら誰でも心配するが。


                  ◇◆◇


 魔物を探し始めてから、約10分が経過した頃、俺達はやっと魔物を見つけた。


「あの魔物は?」


 俺は今まで見たことの無い魔物を目の当たりにして、ヤクルトに尋ねてみる。


「あれはトリスと言って、簡単に言えば空を飛ぶことの出来るようになったリスのようなものです」


「そうか。なら、手始めに」


 俺は、即座に『引力操作』を使用してトリスを地面に引きつけて行動不能にした。


「な!トリスが近づいても飛んでいかないですと!」


「俺が動きを止めたからな」


「そんなことまでできるんですか!だから安心しろと言ったんですね!」


「ダカラ!攻撃するなら今だ!」


「うん!」


 そう言い、ダカラはトリスに向かって切りかかった。

 トリスは倒れた。


「ダカラ。その倒れたトリスの食料レベルはいくつだ?」


「レベルは、えっと...え!」


 ダカラは驚いた表情で声を上げた。


「どうした!」


「このトリスの食料レベルが、34って出てるの」


「えー!」


 俺がなんとなく考えて言ったことでまさか、ここまでの結果を出すことになるとは思ってもいなかった。

 そんな事を考えていたその時。


「パンパカパーン!」


 何処かで聞き覚えのある声が聞こえ、ダカラの影から、見覚えのある人...否、生物が現れていた。


「お前は...」


 俺とヤクルトとダカラの3人全員が見覚えのある生物だったようで、3人で必死に思い出していた。


「あ!」


 俺達3人は一斉に思い出し、その名を呼んだ。


「ポセ!」


 まさか、こんなにも早い再会となるとは思ってもいなかった。


                  ◇◆◇


 ポセという生物は、『水神』ポセイドンの眷属である。

 ポセは一体しかいないが、ポセの能力である『運動サイド』の『分身』により、極限無限に近い数分身することができる。

 その分身のことを、ポセに似ている存在だが少し違うという意味で、ポセダッシュと呼ぶ。ポセ、そして、全てのポセダッシュは記憶を共有している。しかし、ポセは、他の全てのポセダッシュの記憶を“一方的”に共有している。その為、ポゼダッシュにはポセが何を考えているか、何をしているのかも分からない。


                  ◇◆◇


「久しぶりですね!皆さん」


 ポセは、約1ヶ月ぶりに出会う俺たちにそう話しかけた。


「久しぶりだな」


「まあ、厳密に言えば記憶を共有してるから分かるだけで、僕が会ったのはダカラさんだけなんですけどね」


「分身と記憶は共有出来るのか。っていうことは、もしかしてあの空間で俺とあったのも分身のポセなのか?」


 俺は、オリジナルのポセがそんな奇跡的に俺のところに回ってくるとは思えなかったため、あの空間で会ったポセがオリジナルか分身かを尋ねてみた。


「ええ、そうですよ。分身のポセ、ポセダッシュと呼びます」


「やっぱりそうなんだな」


「そんなことより!僕は話をする為に来たんじゃありません!」


 ポセ...否、ポセダッシュはいきなり焦ったような態度で喋りはじめた。


「そんなに焦ってどうしたんだ?」


「僕は、ダカラさんの能力が覚醒したから来たんですよ!」


 さっきポセダッシュがダカラの影から出てきたことと、ダカラについての話しかしないということから、一人につき一体のポセダッシュが自分の担当として影についているということが推測できる。


「ダカラの能力が覚醒したのか?」


「はい。能力には応用した使い方があります。ダカラさんは能力の応用を成功させた為、能力が覚醒されました」


「覚醒っていうのは具体的にどういうものなんだ?」


 俺は、気になったため、能力の覚醒について聞いてみることにした。


「知りません」


「え?」


 ポセダッシュに聞いてみたは良いものの、予想外の答えが返ってきた。


「知らないってどういうことだよ」


「いや、知らないというか、覚醒する前と後の能力の違いなんて、その能力によって変わるんですから、分かるわけないじゃないですか」


「それなら最初からそう言えよ」


「因みに、今までに能力が覚醒した人の例を紹介すると、ただ覚醒という名が手に入っただけで、出来ることは何も変わらない人とか、出来ることが大幅に増えた人とかいます」


 能力によってそこまで致命的な差があるとは思っていなかった。能力は応用次第で極限無限に強くなると思っていたが、能力によって上限があるようだ。


「そう言えば、能力が覚醒したら、今みたいにポセダッシュが影から出てきて伝えに来るのか?」


「そうですよ」


 俺の頭の中には一つの疑問が浮かんできた。俺は『引力操作』を沢山応用して使ってきたつもりだ。しかし、能力は覚醒していない。つまり、考えられるのは...


「俺はまだ『引力操作』を使いこなせていない?」


                  ◇◆◇

 

「今回のアポカリプスで地界に来た人の中で、応用の効きやすい能力を選んだ人は...結構いるな。これは流石に厳しいんじゃないか?」


 何者かが囁く。


「応用の効きやすい能力。それは普段使いにも戦闘にも使える便利なものだ。しかし、それの対価は...人の領域を越える応用をさせなければ、覚醒できないことだ」

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