25

「悪い、もう1回寝る。いろいろと疲れた。

6時が近くなったら起こして欲しい。」

「もう6時まであと5分ほどですよ♪」

「ぐあー、そうか・・・数分でお別れか・・・。」

「そうですね、でも瞬ちゃんとお出かけにいけること、

私は今から心待ちにしていますよ♪」


そうそう寝ている余裕がある訳でもない。

私たちは戸締まりと消灯を確認してから店を出た。


私がバスを待っている間、もこもこダウンに

薄っぺらいジャージズボンというちぐはぐな格好で

遥乃が側に立って、暇潰しの相手をしてくれる。


「瞬ちゃんは宇宙人を信じてるんでしたっけ?」

「私は信じてない。いたら面白いなってだけ。」

「・・・会ってみたいんですか?」

「そりゃあまあ、いるなら。」

「私も会ってみたいですね♪」


もし私が宇宙人に出会えていたら、

私は宇宙開発の道に進んでいたかも知れない。


「もし出会えてたとしたら、お互いに、

今とは違う人生を歩んでいたのかもな。」

「うふふ、そうかもしれませんね♪」


もしかしたら大学中退で勘当されるなんて

散々な目にも遭わなかったかもしれないな。

とは言わないことにする。


東から昇りつつある朝陽の光が、

静かな駅前の霧を分解していく。


初日の出に顔を照らされた私たちは晴れやかな気持ちで、

友人のように語り合い、笑い声を通りに響かせる。

少なくともこの短い間、私たちは心が通じ合っていた。


私は甘い物が好きでケーキバイキングに憧れてるとか、

今度、落語を見に行きたいと思っているとか、

あれこれと話題を転換しながら待ち時間を繋いだ。

10分は瞬く間に過ぎていった。

そして、始発のバスが到着する。


「じゃあ、また連絡する。」

「はい!いつでもお出かけ、誘ってくださいね♪」

「お前、バイトは大丈夫なのかよ。」

「有休を消化しないとなので、大丈夫ですよ♪」

「そう。じゃあ。」

「瞬ちゃん、また会いましょうね♪」


乗車口のステップを駆け上がり、

1年定期をかざしてすぐ、最後部座席へと1段上がる。

トートバッグは、長く広い椅子の端に置いた。

コートを脱ぎたくなるくらいに車内は暖かい。


ドアが閉まる音を、私はバスの車内で聞き届ける。


私は両脚を曲げて座席の上に膝立ちし、

背もたれに腹面をかるく押しつけて腕を伸ばす。

リーチが十分に届くのを確認してから、

握った右手の拳でリアウィンドウに殴打する。


決まった。ガッツポーズを静かに突き上げる。

体を前向きにし、脚をシートから降ろして座り直す。


ざまーみろ。

私は内心、狂った馬のように勝利に酔った雄叫びを上げていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

宝木遥乃 Athhissya @Ahhissya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ