19
らっ・・・
「雷門さ・・・」
「黙るくらいなら話しかけんな。」
私はそう言って、きゅっと黙り込んだそいつの脇を通り抜けた。
後ろからすすり泣く微かな声が聞こえてきた。ズキンと確かな罪悪感に襲われて、私はリノリウムを踏む足取りを早める。
そして立ち止まる。振り返りながら声を掛ける。
「おい。」
ちょっと待て、お前は誰だった?
「お前、名前は・・・」
そいつはもう、気配すらその場から消えていた。
まるで廊下に居たのは最初から私だけだったみたいに、だ。
どこに行ったんだ。
探しに行くべきか。
どうでもいいのか。
名前も思い出せない、そもそも知らないあいつを
探して何を言おうとしたのか聞いてやろうったって、
そもそも見つかるわけが無いから無理な話だ。
私は不可能なことを無理だからって諦めるのが嫌で。
「興味ないから」と自分に言い訳をしている。
興味ないから出来なくてもどうでもいいんだ。
どうしてこんなに不愉快な気持ちになる?
「ブレーキを引くって言うと、ブレーキをかける意味になるけど、」
私のすぐ傍にいた大星先輩が脈絡のない話題を切り出す。いつの話かも思い出せない、カラオケ店のロビーで雑談した時の記憶。
「ブレーキを引き上げるって言うと、ブレーキを外すことをイメージしてるのかな」
「なんの話ですか。」
「いやなんとなく、ブレーキって引くと止まるけどさ、ブレーキを上げると進みそうじゃないかな?」
私はレバーを引いてブレーキをかけるイメージと、ブレーキパッドが上がってタイヤを離すイメージを順番に浮かべた。
「それで、引き上げるはどっちなんだろう止まるか進むのかって」
「進むんじゃないですか?引き上げてるんですし。[押し下げる]動作に比べたら圧倒的に進む方向への力が強いと思います。」
「あー、なるほどぉ!瞬さんって面白いこと言うよねえ」
大星先輩がテンション高く私を褒めるのを聞いて、私の意識は徐々に浮上していった。
「ひよこは鶏の子供なんだよ」
「は?急になんですか?」
・・・私の意識は現実に引き上げられていく。
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