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「ちょっとそこで休んでろ。

それで、掃除はもう終わったのか?」

「ええと、一通りは終わってます

あとはあのゴミを出しに行くくらいです

あ、バケツをひっくり返しちゃったから・・・」


エントランス床の水溜まりも掃除する必要がある。

そのくらいは私がやっておくからと言って、

私は軽く畳んで腕に掛けていたコートを羽織り直し、

バッグは肩から降ろしてソファーに置いていく。


自動ドアの電源を付け直し、しばらく待つ。

私の赤外線を感知して開くドアを前にして私は、

店内奥に向けて吹き上がる雪のない吹雪のせいで

ほんの少しだけ、請け負ったことを後悔する。


ゴミを持って外に出て、冬の夜の寒さにしばし震え、

ゴーグル内部と外部の結露を拭き取って目に着ける。

これで目に染みる夜風から目を守ることが出来る。


ゴミ収集ボックスのダイヤル南京錠を外して、

蓋を入れて投げ入れすぐ閉め、錠を0000に戻す。

4桁の0を目視で確認したらすぐに店内へ戻る。


閉まるのを待ってから、また自動ドアの電源を切る。

ゴーグルを外して結露した外側を拭き取り、額に戻す。

カウンターデスク内側の事務所に入ってすぐ左手。

掃除用具をしまうロッカーを開けて、

黄色くて軽い小型の掃除機を片手でフックから取る。


実習授業でテキトーに作った液体を吸う掃除機。

使う機会も多いだろうと、店長に許可をもらって

店内に置かしてもらっている感じだ。


さて、スイッチオン。モーターを駆動させる。

キュオオオと速くやかましい音を聞いて、もう1度オフ。

事務所の扉を閉めて、掃除機の吸い口が床に付く。

床に広がった薄い水溜まりが縮んでいく。


[キュオオオ、シュゴゴッゴ。]


プラスチック製の透明な廃液容器に、

薄墨に濁った雑水が吸い込まれていく。

この程度なら黒ビニールとかで覆って

視界を遮っておく必要もない。


匂いは我慢できるとしても、色味が悪い。

大星先輩が言うには、

「その掃除機で吸い込んでみるのが、経口摂取をイメージさせてきて無理」

なのだそうだ。


そう言われるとそう思えてくる。だから、

私も嘔吐物処理の時は受け皿容器を袋で覆う。

掃除機の水を流しに捨てて、水道水で流す。

その後で水受けカップも軽くすすぐ。

その時に手も入念に洗っておく。


これが当店の嘔吐物処理オペレーション。

30秒ほど水を出しっぱなしで手をゆすぎ、

その後に業務用の液体石鹸を泡立てて、

また流水で指の間から手首まで入念に洗う。


もはや黄色いハンディ掃除機を握った際の癖。

やめられないルーティンになっている。

その後に自前のハンドクリームを塗るまでが込み。


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