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ダラダラと飲み屋街を抜けた先の交差点では、

雪がないだけの吹雪が吹き荒れている。

私は北から吹いてくる風に押されるままに、

進路を西向きから南向きへと変える。


改めてガンバリオンのキーホルダーを撫でる。


「学校サボってたお陰だよな。」


私が通っている工科大学には、

明智を始めとして、すごいヤツラが山ほどいる。


それに、ガンバリオン好きの学生もそこそこ多い。

SFロボットのロマンに当てられたヤツラに出会えたのは、

明らかにこのキーホルダーの力によるところが大きい。


そしてこのキーホルダーが手に入ったのは、

映画の公開初日の平日朝イチに、

シャッターが上がる前から並んでいたお陰だ。


さて、南下していくこの歩道においても、

私は臨時休業の張り紙を延々と眺めている。

そして時々、[歳末売り尽くしセール!] と書かれた

張り紙やノボリが出しっぱなしの店もある。


大晦日から1月3日までの4日間、

ここらの店は一斉に休業する風習がある。

だから飲食店は大晦日の前日12月30日までに

生鮮食品をすべて使い切る必要があるのだ。


年末年始4日間に儲かったはずの狸の皮を、

予め獲っておくビジネス戦略でもある。


正月を前に財布の紐が緩んだ消費者たちが

年末の贅沢を終えて財布の紐を締めてしまう前に、

あらゆる破格のセールで撃ち落とすのだ。


今日でこそすっかり寂れている駅前商業地帯は、

人々から搾り取った金で発展してきた商人魂の権化だ。


歩みを進めている道の先にはJRの駅が見えている。

私が乗ってきたのは私鉄の方の路線だ。

北風に紛れて、南からのブレーキ音が耳に届く。

JR駅の高架ホームに入っていく電車の中に

乗客がいるかどうかは判断しようがない。

さすがに距離が遠すぎるし、線路の位置が高すぎる。


南向きの歩道を端から端まで歩いて、

進路を東向きに変える。これで3回目の左折。

次に曲がれば、最終バスを見送った大通りに戻る。


右手のJR駅とこの歩道の間には横断歩道が無く、

代わりに地下道か高架歩道を使って渡る。

ただ、今晩の寒い駅前にある高架通路には、

見上げる限り誰も居ない。


数歩先にあった地下通路を見下ろしたところ、

段ボールに腰掛けた男がカップ酒を飲んでいる。

白いタイルに清潔感皆無の黒髪や灰色の作業服が映える。

私は彼を無視してそのまま散歩を続ける。

私はテンション高いだけの奴らとは違うんだ。


この歩道沿いにはビジネスホテルが並ぶ。

ただコスパ的にはタクシーで帰った方が安い。

別に窮乏しているわけではないけど、

貧乏性は大学生の金銭感覚そのものだからな。


「もし最後のバスを逃したのならカラオケボックスが安いよ」


私はバイト先の先輩から、たびたび、

そういったアドバイスを授かっていた。


人気の居酒屋の2階にある大宴会場を貸し切って

学生には負担が大きい [飲み放題] にしたら、

元を取ろうと無理する輩がゴロゴロ出てくる。










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