第3話 岸一郎を今も生かすのは、藤本定義である。

岸一郎は、今も生きている。

そのことは、確かである。

だが、なぜ、岸一郎は生きているのか。

誰が。岸一郎という謎の老人監督を今もって生かしているのか。


今生きている人に限定するなら、岡田彰布氏である。

それが無難な回答であろう。

だが、その範囲をさらに広げたら、どうであろうか?


やはり、藤本定義ではないか!


4月24日の横浜における対DeNA戦、9回表の大逆転劇。

この日も、両軍ともに本塁打は出ていない。

だが、阪神は9回表、打者一巡で一挙4点を取って逆転。

そのままその裏を抑え、連勝を伸ばした。

しかも前日は、延長12回の引分けときている。


投手を軸とした守りの野球と、藤本監督時代の比にもならぬ粘っこい打線。

福井県敦賀市出身者によって生まれた2つの野球

これすなわち、松木謙治郎の野球と岸一郎の野球

それらを、大阪出身の岡田彰布氏は、

矛盾なく 統合=止揚(アウフヘーベン) しているのである。


阪急電鉄は、これまで3度、職業野球球団を持った。

1.関東大震災後の宝塚運動協会

2.阪急ブレーブス

3.阪急阪神東宝グループとしての、阪神タイガース

このうちの2.と3.となる前のかの球団で監督をしたのは、藤本定義 のみ。

藤本定義は、阪急監督退任後、阪神に招聘され、後に監督に就任。

さらに戦前は、巨人軍の実質的初代監督でもあった。

その巨人軍は、投手を中心とした野球であった。


岸一郎が阪神に打込んだクサビは、藤本定義によって具現化された。

その藤本定義の乗るオープンカーに乗せられた少年は、

彼らの母校を経て、阪神入団。

岸一郎がクサビを打込む以前のような打線の主軸となった。

しかし、彼もまた、前回そして今回ともに、投手陣の整備を軸に据えている。


藤本定義は、打線の軸を作るべく、腐れ縁の大毎オリオンズの主砲を得た。

その代償は、大投手小山正明。

2リーグ分立化の引抜き以来の腐れ縁ルートを最大限使ったあのトレード。


岡田彰布氏は守備を整備し、打線を固定化した。

もっとも、わずか1試合ではあるが、大きく組み替えることもしている。

実はその試合からこの方ずっと、引分けを挟んで連勝が続いている。


今年は甲子園100周年。

カーブの藤本がまだ早稲田大学にいた頃に完成している。


その年のキャンプインから間もなく判明した、岸一郎の正体。

そこからの阪神の動きは、否、その前年より、

岸一郎のクサビは、ついに、正体を現したと言えないだろうか。

そのクサビをうまく活用しているのが、岡田彰布氏である。


岸一郎、藤本定義、岡田彰布

すべて、早稲田大学出身者であることを、申し添えておこう。

今生きているのは、岡田彰布氏だけではない。

死せる岸一郎も藤本定義もまた、甲子園に生きているのである。


へびのあし

なお、藤本定義に関しては、東京ドームでも生きていることは間違いなかろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る