なぜ、岸一郎は生きているのか?

第2話 2023日本シリーズの本塁打数より

岸一郎が今も生きていることは、この年の日本シリーズを見ればわかる。


4勝3敗で、阪神の勝ち。

だが、勝った阪神の本塁打は2本のみ。

打ったのは、外国人選手のノイジー1人。

それでも、勝った。

敗けたオリックスとて、そうそう打棒爆発というほどでもない。

確かに、若き大砲・頓宮選手は3本も打っている。

あとは、ゴンザレス選手と紅林選手が各一本。

オリックスは、合計5本。でも、敗れている。


そして、本塁打なしが3試合。

1985年の阪神対西武のような試合展開には、なっていない。

それどころか、サヨナラ勝ちした第4戦では、本塁打は両軍ゼロ。

試合を決めたのは、大山選手のサヨナラヒットであった。


投手中心のチームだったはずの1964年の同じく第4戦。

この試合は、阪神が2本。山内一弘が杉浦忠から打っている。

大毎ミサイル打線の軸と南海の大エースの勝負が再現された。

輸入されたミサイルは、ダイナマイトと化した。

しかし、勝者は南海。

9回裏、ハドリ選手が村山実からサヨナラ本塁打を打っている。


同じくホーム側のチームのサヨナラ勝ちなのに、

本塁打の数はこの通り。

9回裏、サヨナラ勝ちも共通。

しかし、内容はかくの如し。


ダイナマイト打線のような打線に軸を入れるより、

投手を中心とした守りの野球に。

岸一郎の建白書は、時空を超えて甲子園に根付いている。

そのことを最も象徴したのが、この日本シリーズ第4戦ではなかったか。


真弓・バース・掛布・岡田のダイナマイト打線は、確かにすごかった。

現監督の岡田彰布氏御自身、その一角を担う強打者であった。

しかし、彼が監督として作り上げたチームは、やはり、

早稲田大学の大先輩である岸一郎氏の建白書の方向性と軌を一にしている。


岸一郎が監督時に仕込んだのは、若手投手の整備と三遊間の若返り。

そこで仕込まれた遊撃手が、吉田義男。

彼は確かに、一見岸一郎以前のダイナマイト打線のタクトを握った。

だが、ダイナマイトに冷や水を浴びせつけられたら、崩壊も早かった。

その過程は、ここでは述べまい。

なお、吉田義男氏は、早稲田大学ではなく立命館大学出身(中退)。


一方の岡田彰布氏は、早稲田大学出身であるが、大阪出身。

阪神タイガースも、もとは大阪タイガース。

彼は、阪急傘下に入った阪神に居ながらにして、

実は、阪急のライバルチームを再興して見せたと言えなくもない。

その再興においてベースとなっているのは、投手を中心とした守りの野球。


福井県敦賀市出身のレジェンド2人。

ダイナマイト打線を作り上げた松木謙治郎。

投手と守りの野球を作ろうとした岸一郎。


その二人のぶつかり合いは、今、

阪神ファンだった元少年の手により、

二つの敦賀の野球は、

大阪の野球と化し、さらなる高みへと進められている。


あの日本シリーズは、彼の存在をあぶり出す予兆だったのではないか。

岸一郎がこうして今も、甲子園に生きていることが、程なく判明した。

そのことは、甲子園100周年の今年、さらに明らかとなるであろう。


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