第15話 俺、甘い匂いに弱い
翌朝、俺は屋敷の前で筋トレに励んでいた。
腕立て百回、腹筋百回、背筋百回。
なんて意気込んでるができるわけもなく、まずは十回ずつ挑戦していた。
その十回でもかなりキツイ。
これが今まで身体を鍛えてこなかったツケというものだろう。
残り六日だというのに何を今さら悪足掻きを、と思うかもしれないが、少しでも実力を付けない限り、この先、道がないのは明らかだ。
こうやって筋トレを始めたのも、そう思っての行動だった。
しかしまあ、全然実感が湧かない。
すぐに結果が出るもんじゃないが。
「俺は最強。姉ちゃんを守る」
一人ぶつぶつ呟き、俺はひたすら筋トレに励む。
すると屋敷から姉ちゃんの声が聞こえてきた。
「ネオ君、朝ご飯よ」
「はーい! 今行くから!」
腹筋に痛みを感じ、服を捲り上げた。
いやまさか……俺にシックスパック、だと?
驚きを隠せなかった。
なぜなら今までガリガリだった身体に初めて立派な筋肉が付いたのだ。
野盗に襲われた時も傷が一晩すれば治っていた。ということから考えるに、俺の身体は他の人と少し違うのかもしれない。
どういう体質か、まではちょっとわからないが……。
姉ちゃんに報告しようと慌てて屋敷の中に入る。
けど、玄関には誰もいない。
さっき朝ご飯って言ってたから、食堂にでもいるのか?
そう思って食堂に顔を出すが、またしても姉ちゃんの姿はなかった。
「姉ちゃんどこ行ったんだよ」
頭をかきながら屋敷中を隈なく探す。
外に出たのかと考えたが、もしそうだとしたら俺と鉢合わせになるはず。それに姉ちゃんは俺との食事を何よりも大切にしている。
理由は新婚さんみたいで楽しいからだそうだ。
食堂はもちろん、風呂や洗面所、書斎にはいなかった。残るは二階の姉ちゃんの部屋と俺の部屋、それと物置だけだ。
玄関の中央にある階段を登ると、かすかに女性の声が聞こえてきた。
その声は叫んでいるというより喘ぎ声。
いやいやいや、朝からそんなはしたないこと姉ちゃんがするはずない。
そう思っていた、いや望んでいたのかもしれない。
姉ちゃんのあられもない姿を見たくないだけに。
姉ちゃんの部屋の前まできてしまった。
けど、声は一切しない。
だったらこの声はどこから?
聞こえてくるかすかな声に耳を傾け、俺はそっと自室の扉を開けた。そこにはベッドに横たわり、足をモゾモゾしている姉ちゃんの姿があったのだ。
「ネオ君、お姉ちゃんもう我慢できないかも」
「な、なな何をやらしいこと俺の部屋でしてんだ!」
「きゃあああ! 見られちゃったお姉ちゃん恥ずかしい~」
俺は部屋に入ってベッドのシーツを確認する。
幸いなことに汗とか諸々で濡れてはいないみたいだ。
「お姉ちゃんお風呂入ってくるね。その後スープ作るから食堂で待ってて」
「うん……」
姉ちゃんは何事もなかったかのように部屋を出て行った。
朝風呂も確かに気持ちいけど、今日の姉ちゃんは色々と様子がおかしい。
今まで朝から風呂なんて入ったことがないからだ。まあ、はしたないことしてたら汗もかくよな……いや、そうじゃないだろ、俺。
でも今日に限って……やっぱ俺の部屋でやましいことしてたんじゃ?
しかし単に自分の部屋と勘違いして寝てただけだとしたら?
誰があんな喘ぎ声出して寝るやつがいるんだよ!
念のためシーツを変えようと手に取ると、フワッと甘い匂いが部屋中に広がった。
「姉ちゃんの匂いか……」
この甘ったるい匂いを嗅ぐと頭がおかしくなりそうだ。姉ちゃんがいつも使ってるシャンプーの匂いに香水、それに体臭が混ざって何とも言えない女性の匂い。
この匂いをずっと嗅いでいたい。
そう思うのも当然。
たとえ誰にキモがられてもいい。
それが、それこそが男としての本能なのだ。
でも姉ちゃんに欲情するのは負けな気がする。
「今、お姉ちゃんの匂い嗅いでたでしょ」
なぜか風呂に行ったはずの姉ちゃんが戻ってきた。
見られた、見られてしまった。
姉ちゃんの匂いで心地よくなってるところを。
「ゲッ、姉ちゃん風呂に行ったはずじゃ」
「なわけないでしょ。でもまさかネオ君が匂いフェチだったとはね。攻め方を変えないと」
「何の話をしてるんだ! さっさと風呂行け!」
「はいはい、わかりましたよ。お風呂覗きに――」
「行かねぇよ! 覗かねぇよ! 見たくもねぇよ!」
「もう知らない、欲情魔のくせに強がっちゃって」
「な!? 誰が欲情魔だ!!」
今度こそ姉ちゃんはいなくなったはず。
聞き耳を立てると何となくわかる。階段を降りる音、それに鼻歌も聞こえてくる。
偉くご機嫌のようで、俺は恥をかいたってのに。
よくよく考えたらほんと姉ちゃんって自由人だよな。自分の好きなことは一生懸命やるのに、嫌いなことは怒って手をつけようともしない。
本当なら俺の部屋でこそこそとしていた姉ちゃんが責められる立場のはずなのに、なぜか俺が責められる立場に。っていうか状況
結局シーツは変えず俺は食堂に向かう。
先に言って置くが、決して姉ちゃんの匂いに包まれて寝たいとか、夜のオカズにしようとかそんなんじゃない。
シーツは汚れていなかった。
ただそれだけが理由なのだ。
―――――――
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