第23話 戸籍の作り直し
「まさか作り直された奥様の戸籍を?」
龍灯の質問に虎春は不敵な笑みを浮かべる。
「は?人族から盗んだのか?」
龍希は焦った。
戸籍を見られることを妻は嫌がっていたのに。
「あんたら本当に分かってないのね。がっかり。まあ時間をあげるからいい知恵持ってきなさいよ。」
虎春は笑みを崩してため息をついた。
黄虎が妻の戸籍を手に入れたわけではなさそうだ。
しかし、黄虎ですら手に入れられないって人族は作り直した戸籍をどこに隠してんだ?
「じゃあ2つ目ねー 朱鳳の巣まで行って何の取引したのか教えて。」
「は?黄虎には関係ねぇよ。」
龍希は今度は呆れた。
「あるわよー。妻と竜の子たちまで大樹に呼びつけて、竜琴ちゃんに羽をつけさせて。 その上、眷属の鷺とワシに紫竜としては考えられないほど甘い処分を約束させた上、白鳥にも恩を売って、さらには紫竜族長をワシ領にまで行かせて、ワシの奴隷集めまでさせるなんて! 一体どんな取引したわけ!」
虎春の口調が段々荒くなる。
どうやら黄虎の本命はこれらしい。
龍希は肩透かしをくらった気分だ。
「龍灯、任せた。」
「はい、族長。こちらが求めたのはとある鳥の獣人の情報ですよ。鷺と白鳥とワシ領訪問と奴隷集めには朱鳳は関係ありません。」
「ふーん。ココの息子は予想通りね。父ワシの情報を恵んであげたのに結局、朱鳳頼りなんてなっさけない。 それ以外は朱鳳とは別なの。それはいい情報だわ。龍希殿が鷺や白鳥を相手にするわけないから、奥様がらみね。」
相変わらず虎春は恐ろしい。
なんであの龍灯の答えからそこまで分かるんだよ!?
「2つ目は終わりだ。次はなんだ?」
龍希はもう虎春を睨んでいた。
我慢の限界が近づいている。
「あら怖い。次が最後よ。虎冬が捕まえた解放軍の人族を紫竜に預けるから、解放軍の巣に戻して頂戴よ。もちろん生きたままでね。」
「は?」
「紫竜で捕まえてた人族で成功したんでしょ。やるじゃない!」
「まだ解放軍に興味があんのか?お前らの目的は妻だったろう?」
「なんのことー?のろまなあんたらよりも随分前から私は解放軍に興味津々よ。 さ、お返事は?紫竜族長殿。」
虎春は愉快そうに龍希を見る。
「いいだろう。取引成立だ。」
「じゃあ、シリュウ香持ってきたらマムシと人族を渡してあげる。あ!戸籍の件は後払いにしてあげるんだからまともな知恵を持ってきてね。」
虎春たちは上機嫌で帰っていった。
~大広間~
虎春たちが戻った翌日、龍希は一族会議で取引について報告した。
といっても報告担当は龍灯だ。
「朱鳳に対抗して虎が竜琴様に!?しかし、奥様と同じ指輪って藍亀の?一体いくらしたんだ?」
「虎の子が求めたお返しも謎ですな。奥様の故郷のものなんて虎には何の興味もないでしょうに。」
一族は皆、首をかしげている。
「あー、それはな。どうやら黄虎は人族の、芙蓉の故郷の風習を真似てるらしい。」
龍希は昨晩妻から聞いた不愉快な話を共有せざるをえない。
「芙蓉の故郷では、結納金か婚約指輪を贈られたら、そのお返しに妻の故郷の品を贈るんだと。結納返しというらしい。 ふざけやがって!」
「そ、そうなのですか?虎どもはどうやってそんな情報を・・・」
「さあな。」
「しかし、どうされますか、族長?」
「仕方ねぇだろ。婚約指輪とうちは認めねぇが、水連町の物をくれてやるって約束は守ってやる。じゃなきゃ、口止め料が足りなかったと言われかねねえ。マムシの件を言いふらされる訳にはいかないからな!」
龍希は悔しくて仕方ない。
「では次にマムシの引渡代ですが・・・」
龍灯が報告を続ける。
「ええ!?奥様の戸籍が作り直されたのですか?」
「いいえ、まだ分かりませんぞ。もしも戸籍が作り直されたなら黄虎がそれを盗まずに、わざわざこちらに教える理由が分かりません。」
龍賢がすかさず釘を刺す。
「黄虎の狙いはなんなんだ?芙蓉の戸籍の所在を探らせたいのか?」
「その可能性はございますな。龍緑を指名したのも、龍緑が妻から戸籍の情報を引き出すことを期待してのことかもしれません。」
「俺は黄虎の件に妻を巻き込むことはしません。」
龍緑は断言した。
「族長の奥様はなんと?」
「妻にこの話は聞かせてない。また戸籍のことで黄虎を頼られると困る。だが、放置もできない。まずは戸籍の作り直しとやらが本当かどうか龍緑に調査させる。取引担当の鹿領と水連町はすぐ近くだからな。」
「え?いえ、補佐官の方が・・・」
「適宜、龍海殿にご相談して進めます。」
龍緑がそう言い、龍海が頷くと、それ以上反対の声はなかった。
「2つ目は・・・」
龍灯の報告は続く。
「ああ、今度は黄虎が朱鳳に対抗心を燃やしてきたのですな。」
「はい。さて次が最後の要望です。・・・」
龍灯の報告に再びどよめきが起こった。
「なぜまだ解放軍を黄虎が?しかも、解放軍の巣に返せとはなんでまた?」
「おそらくその人族には黄虎の臭いが染み付いているはずだ。解放軍にいる獣人に対する牽制か?」
「それならわざわざこちらに要望する必要はありませぬ。」
「・・・」
黄虎の思惑を推察できるものは居なかった。
「なんにせよ、マムシ妻を生きたまま回収しなきゃならねぇ。黄虎の谷には龍灯と・・・」
「あ!すみません。妻が懐妊中なので遠征は勘弁頂きたいです。それに、昨晩、私についた虎の臭いで妻はかなり体調が悪くなってしまい・・・」
龍灯は必死で訴える。
「そりゃ仕方ねぇな。なら代わりに・・・」
龍希は他の補佐官たちを順に見る。
「龍算・・・」
「私も妻が虎の臭いを嫌がりますし、龍示が昨晩から体調を崩しておりまして・・・」
「龍栄殿・・・」
「私は構いませんが、黄虎は私を嫌っておりますよ。あと朱鳳がうるさいです。」
龍栄は嫌そうだ。
前回、龍栄が竜縁をつれて龍希たちと黄虎本家に行ったことについて朱鳳の愚痴が凄まじかったらしい。
反対に黄虎たちは龍栄を徹底的に無視していた。龍栄を族長代理として行かせても門前払いの可能性すらある。
「・・・なら龍海か?」
「私は藍亀の島へ出張の予定でしたが、変更されますか?」
「あ!忘れてた。ん~しかし、龍景で大丈夫か?」
「さすがに荷が重すぎます。」
龍景も嫌そうだ。
「族長、私に龍景のお供をさせてくださいませ。」
「え?」
なんと龍光が手をあげた。
「え?龍光様!?でしたら、お供になるのは私の方・・・」
「何を言う。族長代理は補佐官と決まっている。龍景は普段の黄虎との取引も問題なくこなしておりますし、マムシと人族の護送も龍景なら心配ございません。私には黄虎の臭いを嫌がる妻はおりませんので、お供に立候補いたします。」
「え?ああ、じゃあ龍景を族長代理にして、龍光をつける。」
「ええ!?いくら補佐官とはいえ序列的に・・・」
「ん?ならお前が代わりに付いていくか?龍韻?」
「え?いえ、そういうつもりでは・・・」
「マムシ妻がいますので私も参ります。」
龍兎の守番でマムシ妻の担当だった竜波が手をあげた。
「よし!決まりだな。頼んだぞ。」
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