第3話

 小学生の頃のわたしが、多分今までで1番幸せな時間を過ごしていた気がする。


 わたしはいつも、周囲の子達よりほんの少しだけ抜きん出ていた。

 図画工作や書写、夏休み等の課題では必ず入賞していたし、足も早かったし、勉強も常にトップだった。色々なことの代表を任されて、やんちゃで元気なキャラクターでも、怒られなかったし、周囲もそういうわたしを認めてくれていた。


 でも、本当は、わがままを言いたいなって思うこと、たくさんあった。


 小学校2年生の時にはやった算盤教室。

 1回でもいいから、1ヶ月でもいいから、通ってみたかった。少し話しただけで絶対に無駄だって切り捨てるんじゃなくて、もう少し話を聞いてほしかった。羨ましいと言う顔をするたびに激昂しないで欲しかった。「自分もやりたくてできなかったけれど、算数の練習帳をたくさん解いたら算盤の子よりも早く計算できるようになったからお前もやれ」と言われてパパに練習帳を渡された時、わたしの中で何かがプツンって切れた。ママは、「私が教えるから大丈夫」って言って、お金を払って習うだけ無駄だと取り合ってはくれなかった。


 同じく小学校2年生の時に流行った習字教室。

 ママの激推しでやっとできた、初めての習い事。先生が死んじゃって半年も通えなかったけれど、わたしの中では最高の思い出の一幕。でもね、ここでもわたしはずっと苦しかった。

 上手に課題の字を書けた月があった。通っていた流派の教室では、上手にかけたこの作品を本にまとめるということをしていて、わたしの字が本に載ったことがあった。嬉しかった。めいいっぱいに褒めてほしかった。でも、ママは困ったように微笑んで軽く褒めてくれるだけだった。だって、ママはものすごく習字が上手だったから。幼稚園児の頃からやっていたというママの習字は、びっくりするぐらいに綺麗なの。全国コンクールで金賞を取ったことがあるぐらいに、小さい頃から字が綺麗なママには、わたしの字が微妙に写ったらしい。でも、ちゃんと喜んではくれたんだ。「よかったね、次も頑張ろうね」そう言ってくれたし、少し豪華なおやつだって買ってくれた。でもね、隣の席に座っていた友だちのお母さんみたいに、ぎゅーって抱きしめて、はちゃめちゃに喜んで欲しかったの。高望みだってことはちゃんとわかってる。でもね、小学生が母親に対して過度な希望を持ってしまうのは仕方がないことでしょう?

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