第4話 反乱


「ヴィレム」

 そう呼んだのは、副船長のヘニーだ。


「はい、副船長」

「実はな。船長が今回、戦闘もせず降伏をしたのはヴィレムの為だといっているんだ」

「えっ、なぜ、僕のために」

「お前さんが怖かろうとな」

 ヴィレムは、少し考えた。


「僕だって航海士だ。勇敢に戦って見せます」

 その言葉に気をよくしたヘニーは、

「よく言ったヴィレム。さすがだ。我が弟分よ」


 そこにいてはいけない者の声がした。

「誰の弟分だって」と。


「船長……」

 だが、慌てているのはヴィレムだけでヘニーは、静かに目を細めていた。


「船長、聞いていたのなら話は早い。船を降りて欲しい」

「正気か。ヘニーよ」


 支店長のフィリップスが港の近くに寄った際、周りが騒がしいので気になり、ドックに立ち寄ることにした。


「船長は、この船から降りてもらう」

「バカは止せ。さっさと船から降りろ。出港することは許さん」

「次の仕事はオレたちだけでやらせてもらう。おい、ヴィレム。お前も乗れ」

「えっ、副船長。僕は……」というヴィレムは船長の方を向いた。


「おい、ヴィレム。船長の方に付く気か」

「わ、わかりません」

 これは、若いヴィレムの正直な気持ちなのだろう。

 しかし、それを舌打ちをしたヘニーは、船員は不足しているが出港をするようだ。


 だが、

「待たんか」

 そう言ったのは支店長だ。

「何ごとか。ヘニーよ、説明をしてもらおう」


 理由を聞いた支店長は激怒した。

「船長を変えることはない」と。


 そう、船長と副船長の役目と権限は大きく異なる。

 船長が船員を選び報酬を決めるのだ。

 利益の半分はオーナーや企業が取り、残り半分が船長の取り分となる。

 船長は自分の取り分から、船員の報酬を決めて、支払うのである。

 だから、船長の交代など、オーナーが認めなければ許される訳がないのだ。


***


 その頃、アインス商会と取引のあるインドの海事会社のシュバルツ商会から、このロッテルダム支店に連絡があった。


 その内容は、

『清国の福州の茶商人と新茶500トン契約したので、ロンドンまで運んでほしい』と。

 さらに、シュバルツ商会が医薬品の購入を求めており、オランダからインドへ行く際は、医薬品の輸送も行うので、これは大きな儲けになる。


 これは、ロッテルダム支店にとって、願ったりかなったりの美味しいお話だ。

 それは、先ほど、ヘニーを怒鳴って、気分を害していた支店長も小躍りしてしまうほどだった。


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