墓守

堕なの。

墓守

 その少女は墓守だった。黒いシルクハットにピンク色の髪、腹と足を大きく出した服装。時代錯誤のおじ様でなくとも、不謹慎だろうと言いたくなるような格好で墓守をしていた。

 毎日同じ時間に祈りを捧げる。一八時一八分、その時間きっかりに墓場に訪れて、全ての墓を回るのだ。その行動を村の人間は気味悪がった。ただでさえ、少女が自ら進んで得体の知れない墓場の墓守になっただけでも、普通からは逸脱しているのだ。その少女が、知らないはずの墓の持ち主に、同じ時間に祈りを捧げに行くのだ。毎日行くだけならまだわかる。ただ、彼女はまるで意味があるかのように、同じ時間に行くのだ。その不可解な行動に、次第に少女は村での孤立を深めていった。今では誰も彼女を気にしない。そこに居るけど居ないものとして扱う。それが暗黙の了解になっていた。

 今日も少女は墓場へ訪れる。一八時一八分、その時間きっかりに始める。

「ジャック、ここを守ってくれてありがとう」

「コニア、守れなくてごめんね」

「ジジル、あの日一緒に遊んだの楽しかったね」

「ハウレイ、約束破ってごめんなさい」

「ミヤビ、大好きだよ。愛してる」

「ハルヒ、……」

 何人もの名前が並ぶ。そして、彼女の口から紡がれる言葉は、彼女の知るはずのないものだった。

 ここは過去に起こった戦争で滅びたこの村の死体が全て埋まっているのだ。今住んでいる人達はその歴史を知らない。ここは歴史の影に葬り去られた、忘れられた過去の証拠だった。

「私だけ、生まれ変わってしまいました。皆が居るのなら嬉しいですが、恐らくいないと思います。私だけがあの騒動の中生き残ったのですから。だからせめて、この場所だけは守ります。絶対に」

 現在村ではこの墓地を取り壊すという話が進んでいた。それを彼女は何としても止めようとしているのだ。

「また、明日も来ます」

 そう言って彼女は背を向けた。目から零れる涙が視界を歪めて、ふらふらとした足取りで去っていった。地面に着いた足跡は、風によって少しづつ消えていく。彼女はまた、明日もここに来る。それは贖罪か懺悔か。

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墓守 堕なの。 @danano

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