第13話

 それは、鍛冶屋『ヘストファイ』でのこと。


「嬢ちゃんはまだ職業は授かってないんだろ。その状態で第一線に立つのは厳しいなあ。あくまでサポートに徹するべきだな」

「しかし私には、一応『スノーフェアリー』の魔力があるのですよ?」

「本来はそれで良いんだけどなあ……兄ちゃんの行く所へ一緒に行くなら、自衛の術くらいは持っておいた方がい」

「んー……あっ。これ、何ですか?」


 と、ツィーシャが手に持ったのは鋭い刃が付いた鎖だった。札を見てみると『ネストチェーン』と書いてあった。


 それを見て、カストは「それがあったか!」と手を打った。


「鎖は鎌より戦いづらいなんて言われてるが、良いもんだぜ。中距離からの遠心力を利用した斬撃、剣に絡めれば動きを止められ、不意打ち用の暗器としての性能も十分だ。魔物の動きを止めるにも最適だし、嬢ちゃんの魔力を込めればそのまま凍らせる事もできる。なるほど、サポート武器としては一級品だ!」


 鎖か……確かにあれはやりづらい。師匠が訓練の一環として使ってきた事があったけど、分銅が付いた方で剣を絡め取られ反対側から飛んでくる一撃は非情に厄介だ。


 何も相手に直接傷を与えるだけが戦いじゃない。鎖を目の前にしただけで「面倒な相手だ」と思わせれば十分だ。変幻自在に操れるようになれば、敵はストレスで一杯になるだろう。


「うん、いいんじゃねえか? 半年もすれば使い物になるだろ。しかし、何だってそんなもんに目ぇ付けたんだ?」

「何というか、呼ばれた気がしたのです。幻聴でしょうか……?」


 ――相棒、嬢ちゃんにはアレを持たせな。アレはオレ様と同じ匂いがする。おそらく、二度は出会えねえ代物だぜ。


 祢々切丸がそこまで言うものか……なら、勧めてみよう。


「ツィーシャ、軽く振ってみたらどうだ? 試し切り場ででも……」

「いえ……その必要もなさそうです。手に取って分かります……私、これ完璧に扱えます。見ててくださいね」


 ツィーシャはヒュンと刃を廊下の反対側に向けて発射すると、品物を傷つける一歩手前で止めた。そしてうねる鎖を天井に沿わせて手元に戻した。


 まるで大道芸でも見た気分だ。硬質な鎖を操る様はまさに舞のごとく。


「しかし私、鎖なんか扱ったことないんですけど……どうして、こんな事ができるのでしょうか?」

「そりゃお前さん……武器に選ばれたのさ。時折あるんだよな、そいつに持たれるために生まれた武器って奴がな。世界には流暢に持ち主と話すユニークウェポンもあるらしいって言ったろ?」

「この子が……私を?」


 それはまるで蛇が巻き付くように鎖がツィーシャの体にとぐろを巻く。確かに、随分武器に好かれたようだな。


「私、武器を持つならこれがいいです。これでスラッグのサポートをしたいです」

「おっしゃ、それじゃ今すぐ出してやろう。新品もあるけど……」

「この子がいいです。どれだけ沢山のお客さんが触ったか知りませんけど、その中で私を選んでくれたって事ですから」


 ツィーシャはわずかに笑顔を浮かべて鎖を撫でる。似合っているし、ツィーシャのサポートがあれば俺の戦闘も楽になることだろう。


「なあ、ネネ。お前ってユニークウェポンなのか?」


 ――相棒、武器でも人間でも生きてる限りはユニークであるべきだって思わねえか?


 そりゃごもっともだ。


 ◇


「一の舞、『雹の鞭』!」


 そして、グレースから受けた依頼を片付けに向かう最中……ツィーシャの鎖は数多の魔物を葬っていた。まだそう高位の魔物がいないから、にしても活躍し過ぎだ。


 放たれた刃は確かに魔物の急所を突いて手元に戻ってくる。爪や牙なんかじゃ届かない間合いから無限に襲ってくる斬撃に魔物は俺達に近づく事すら出来ずに死んでいく。


「……しかし、ブラッドカット加工ってのはすごいな。今ので三十は討伐したけど全く切れ味が衰えない」

「Sランクの魔力を込めても全くくたびれないっていうのは想定外でしたね。最も、モノノケ相手ではそうもいかないでしょうが」

「そこまで勝ってもらっちゃ俺の仕事がなくなっちまうよ。それより、そろそろ目的地だぞ――」


 瞬間、森を震わせるほどの轟音……いや、咆吼が聞こえた。


「急ぐぞ」

「はい」


 そして、拓けた街にたどり着くと、そこには遠目からでもデカいと分かる巨躯が確認できた。それは……何本あるんだという足に鋭い針の如く爪を生やした、牛のような頭をした化物……いや、モノノケがいた。


 どうしてモノノケと分かるかというと、視界に入った瞬間に全身の血が……サムライの血が騒いだからだ。


 ――相棒、あいつぁ牛鬼。並大抵のモノノケじゃねえぜ。心してかかりな。

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