episode.4 心
太陽が高く昇り、お昼ごはんを食べたウィスタリアとライラックが皿や調理器具を片付け、エアボートに乗ろうとした時、複数の影が近付いてくる。
「お姉ちゃん、盗賊が近付いてきてます」
「盗賊ねえ。ライラック、これに魔力込めて盗賊に向けておいて」
ウィスタリアが左太ももに装備していたピストルのダイヤルを2まで回し、ライラックに渡す。
「??わかりました」
ライラックは言われた通りにピストルに魔力を込め、盗賊の頭と思しき人物に銃口を向ける。
「ガキ2人たあ、とんだカモだな」
「おい、ガキども痛い目見たくなけりゃ大人しくしとけ」
5人いる盗賊のうち2人がウィスタリアとライラックに剣を向ける。
「言われたとおりに大人しくするバカがどこにいるっていうのよ」
ウィスタリアは右太ももに装備している魔道具を手に取り、魔力を込める。一瞬で刀身を形成したそれで剣を向けている2人のうち1人に急接近し、右手を振り抜き、首に一筋の赤い線をつける。
「...あなたたちは兎よ。武器を置いて座りなさい」
斬られた男の首がずれ、地面に落ちる。
「お前!!何しやが...」
仲間を殺されたことに怒り、ウィスタリアに斬りかかった男は上半身と下半身が離れる。それと同時にライラックに剣を向けていたもう1人の男が後ろに吹き飛ぶ。
「まだ、わからないの?」
残された2人は足を震わせ、体を上手く動かせないでいる。そして、恐怖が限界に達し、その場にへたり込んだ。
その2人にウィスタリアが近づき、魔力ブレイドを向ける。
「聞かれたことにのみ答えてちょうだい。目的はなに?」
ウィスタリアは魔力ブレイドを盗賊の首にさらに近づけ、答えを聞き出そうとするが、突きつけられている男は顔を引き攣らせながら強がりの笑みを浮かべ、ウィスタリアを煽る。
「...はっ、脅しのつもりか?そんなんで俺が答えるとでも思っt....」
「聞かれたことにのみ答えなさいと言ったのに....あなたは?」
ウィスタリアを煽った男の首がボトリと落ちる。そして、へたり込んでいるもう1人の男に向き直り、剣を突き出す。
「ひっ!....と、とある商会に、命令されたんだ」
男はウィスタリアに向けられた表情に戦慄を覚え、悲鳴をあげる。その恐怖から男は少しづつ情報を話す。
「それはどこ?」
「.....スカム商会だ」
「そう、わかったわ。あなたたちがスカム商会に協力して、人攫いをして引き渡した、と」
「そ、そうだ。だが俺は乗り気じゃなかったんだ!!信じてくれ!!」
「黙りなさい。最期に1つ聞くわ。他の仲間はどこ?」
「......街道の側に井戸が1つある。そこが俺たちのアジトの入口だ」
「わかりました。ではもう用はありません。...今まで攫った人たちに謝罪しながら死になさい」
「待っ...」
ウィスタリアが右手を振り抜き、赤い血が吹き出る。それを一瞥してウィスタリアはライラックの方に振り向く。
「っ...!?」
ライラックはウィスタリアの無感情で冷酷な表情に身震いする。腕には鳥肌が立っており、ライラックは思わず腕を擦る。
「......行こうか、ライラック」
「は、はい!」
ウィスタリアに話しかけられ、ライラックは言葉に詰まる。
「おい待てぇ゙....」
ライラックによって吹き飛ばされた盗賊の頭が立ち上がり、吹き飛んだ際に落とした剣を拾う。
「失せなさい。もう聞きたいことはないわ」
ウィスタリアが1つの感情もない目で男を睨みつける。
「っ......!?まさか、いや、でも.....」
男は剣を仕舞い、なぜか不思議そうな表情を浮かべながら歩いて去っていった。
ウィスタリアが魔道具を右の太ももに戻し、エアボートに乗り込む。
「.....行こうか」
「...はい」
ライラックがウィスタリアにピストルを返し、ウィスタリアの膝の上に座る。
ウィスタリアがエアボートに魔力を流し、発進する。去っていった男を高速で追い抜いたときには男がぎょっとした顔をしていたが、もちろん無視した。
この後、街の前に着くまで一切の言葉は交わされず、沈黙が流れた。
「ここからは歩いていこうか」
「...わかった」
ウィスタリアがエアボートへの魔力供給を止め、停止する。
1つ前の街と同様に街に入り、宿を取る。
「ライラック、ご飯の時間まで研究資料読んどく?」
「そういえば昨日言ってたもんね。もちろん読むよ」
「わかった。初期に書いた研究資料を置いておくわね。それじゃ、私はお風呂に入ってくるから質問があったら出てきたときに聞いてね」
ウィスタリアがマジックバッグから数枚の紙で綴じたものを3部取り出し、机に置く。
「わかった」
「流石にお風呂から出るまでに読みきれないと思うけど読み切れたら自由に考察でもしといて」
ウィスタリアはそう言うと、着替えを持ってお風呂場に入った。
*****
ウィスタリアはシャワーを浴びながら今日の昼のことを思い返していた。
あのままでは何をされていたかわからないけれど、あの段階で殺すのは過剰防衛でしかない。
「あれじゃあ...盗賊と同じよ。それに....」
シャワーを止めて、湯船に浸かる。手で水を掬い、顔にかける。
殺しに対して何も思わなかった。いや、思えなかった。2日前、あの宴会場で殿下とアイボリー嬢を殺したあの時から何か大事なものを失くした気がする。盗賊に襲われるたびに殺していたらそれに慣れてしまって、欠けた状態が普通になってしまって、今までの普通の状態に戻れなくなる。
.....もうこれ以上、殺しはやめよう。そうしないと私が私でなくなる。
魔道具を貶されて、腹が立って、何も考えられなくなったあの時、いくら怒りに支配されていたとはいえ人を殺した罪が消えるわけではない。私は一生、王族を殺した大罪人という罪を背負って生きていく。それが私への罪だ。
....いや、違うわね。本来ならあの場で捕まって、処刑されて、それで終わり。それが私への本来の罰。
王子を殺した愚かな令嬢として歴史に名を残して、貴族の悪い例として取り上げられる。それでいいはずなのに、どうして.....そうか。私は───
そこまで考えると、思考に区切りをつけ、もう一度手で水を掬い、顔にかけ、上を向き、立ち上がる。
「はぁ.....生意気なことに私はまだ生きていたいのね」
7人もの命を奪っておいて、それに対する罪を一切背負わず、生きていたいと思うなんて......人として終わっているわね。
ウィスタリアはお風呂から出て、ライラックのいる部屋と脱衣所の間に立つ。そこで、自分の気持ちが落ち着くまで、研究資料を読んでいるライラックの様子を後ろから眺める。
「お風呂出たよ。研究資料の方はどう?」
充分に気持ちを落ち着かせたウィスタリアは声をかける。
「あ、お姉ちゃん!この
ライラックが目をキラキラと輝かせてウィスタリアに訊く。
「おっ!いいところに目を付けたね。それを話すためにはまず魔晶というものについて説明しないといけないんだ。ライラックは魔晶って見たことある?」
その質問でウィスタリアに熱が入り、楽しそうに話す。
「ある!村が魔物に襲われたときに1度だけ」
「なるほどね。それの形はどんなだったか覚えてる?」
「たしか、ゴツゴツしてて、楕円に近い形だったと思う」
ライラックが手で形を作って伝えようとする。
「それはね、魔晶じゃなくて魔石っていうの。魔物の体内にあるのは基本的に魔石で、ドラゴンだったり、一昨日にライラックが見たっていうダークウルフだったりの一部の強力な魔物には魔晶があることもある。魔晶を一言で表すなら“魔石の上位互換”よ。それから魔石は楕円形で魔晶は雫に近い形をしているんだよ」
「そうだったんだ。え、じゃあさ、この
ライラックがびっくりした様子でウィスタリアを見ると、ウィスタリアは「ないない」といった感じで手を振りながら笑って答える。
「流石に違うよ。そんなドラゴンみたいに強い魔物を倒そうとか考えないわ」
ウィスタリアがマジックバッグからウィスタリアの顔ほどの大きさで、滑らかな曲線を描いている赤い雫のような形をした石を取り出し、説明を続ける。
「魔晶というのはこれで、鉱産資源なの。この世界を流動している魔力は基本的には動き続けてるんだけど魔力が溜まりやすい場所っていうのがあって、そこに溜まった魔力が固形化すると魔結晶になって、それが大きくなると魔石、さらには魔晶になる。で、これは採れた魔晶を使って作ったのよ。今話した魔石や魔晶っていうのは魔力を流すと一定の間隔で振動することがわかったの。その振動、魔周波と呼ぶのだけれどそれを1本の金属線に流して、高いところまで魔周波を送って、拡散器で増幅、そして放出するの。それからなんやかんやあって各国の最高権力者同士が会談するのに使っている魔道具よ。そのなんやかんやはご飯を食べてからにしましょう」
「わかった。長くなるってことだね」
「そういうこと。疑問点があってもその時までお預けね」
「モヤモヤを晴らしたいけどそれは後のお楽しみにしとく」
「うん。私としても魔道具の話をそんなにキラキラした目で聞いてくれるのはとても嬉しいから教えがいがあるよ。とりあえずお風呂入っておいで。その後、ご飯行こう」
「爆速で行ってくるね!!」
「そんなに急がなくても魔道具は逃げないわよ。ゆっくり入っておいで」
ライラックがお風呂場に駆け込む。10分ほどでお風呂から出てきたライラックはすぐさまウィスタリアの手を引っ張って、食堂に向かう。
「早く早く!」
「はいはい。こういうところは年相応なのね。ちょっと安心したわ」
ウィスタリアは微笑みながらライラックに付いて行く。
ウィスタリアに「ちゃんと噛みなさい」や「味わって食べて」と何度も注意されるが、ライラックは生返事で、食べるスピードは落ちない。
ライラックは食べ終わると、「先に帰って研究資料読んどくね!」と言って階段を駆け上がった。
その数分後、食べ終わったウィスタリアが部屋に戻ると、なぜかライラックの姿がなかった。そして、何が起こったか推測できる部屋となっていた。
「うそ、でしょ....?」
ベッドの布団は荒らされ、机と椅子は倒れている。おまけに窓が開いていて、研究資料が入口付近まで飛んできていた。
ウィスタリアが研究資料の1枚をおもむろに拾い上げる。資料は基本、片面にしか記録していないのにその紙の裏には乱雑に『ひる』と書かれていた。
「ひる.....そう。そういうことね。ありがとうライラック」
ウィスタリアは窓から飛び降り、ライラックを連れ去った者たちがいるであろう場所に向かった。
◇◇◇◇◇
体格のよい男が14人。ランプの明かりによって照らされる地下道の奥でライラックを囲んでいる。しかし、その雰囲気はしんみりとしていて、どこか清々しい空気が漂っている。
「小僧、随分と落ち着いてるな」
ライラックの前に座り、顔を覗き込んでいる男が言う。
「慌てたところでどうにもならないし、ダークウルフに襲われて戦ったときと比べたらこんなの屁でもない」
ライラックは真実と嘘を交えて啖呵を切る。
「...ダークウルフ?お前みたいなガキが勝てる相手じゃねえ。騙されるわけねえだろ」
(まあ、ですよね)
すぐに見破られ、ライラックは黙る。
「それで、ウィスタリア様はどうした?」
昼に2人に会った盗賊の頭らしき男がライラックを攫った男たちに訊く。
「いや、それがこの坊主と一緒に居なかったんですよね〜」
「そもそもこのガキがお頭に会ったガキかどうかすらわかんなかったんすからね」
2人の男がお頭に愚痴を吐く。
「違ったらスカム商会に売ればいいだろ」
「違えねえ」
「それもそうだ」
お頭の言葉を聞いて男たちは口々に笑いながら話す。
「奴隷ってこの国では禁止されてるんじゃないっけ?」
ライラックが盗賊の頭に口を出すが、盗賊の頭は「何言ってんだお前」という目でライラックを見る。
「盗賊に法律の話なんか通じねえぞ.....俺たちは、とうの昔から犯罪者なんだからよ」
「それは確かにそうだ。でも今、話してみて思ったのはみんな根はいい人っぽいし、なんで盗賊なんかやってんのさ」
「....お前は、俺たちがなりたくて盗賊に身を落としたとでも思ってんのか?」
「盗賊になりたくてなる奴なんて極一部でしょ。今のあなたたちを見てると惜しいと思ったんだ」
「惜しい?」
「うん。冒険者にでもなれば割りと高ランクになれそうだし、騎士団にでも入れば団長にはなれなくてもちょっとした役職にはなれたんじゃない?」
「そう...だな。そうかもしれねえ。だが、俺たちにその道はなかった.....奪われたんだよ、貴族に」
「...貴族?」
「ああ、そうだ。俺たちは元々お前の言った通り冒険者や騎士だった。だが、15年前に隣国のオートルートと戦争が起きた。俺たちがいたのは国境いの街でな、最前線で戦ってた。それでも戦況は悪くなっていく一方で、領主が騎士や冒険者の家族を人質として自分の屋敷に監禁してこう言いやがった」
盗賊の頭が悔しそうに唇を噛み、言い淀む。
『勝つまで帰ってくるな!もし帰ってきたらお前らもお前らの家族も殺す』
「これを聞いた俺たちは死ぬ気で戦った。その数週間後には戦況は覆り、最終的に戦争に勝った。だが、人質にされていた妻や15歳以上の娘は全員当時の当主に犯されていたんだ。戦争禍ですら貴族は貴族だった。報酬は一切なく、人の家族を性欲のはけ口にして、俺たちの気持ちが分かるか?命懸けで戦い抜いてボロボロになった俺たちを待っていたのは涙を流す妻と子どもだぞ?どんな思いをしたかお前にわかるか!?」
盗賊の頭がライラックに問いかける頃には全員が涙を流していた。
「....そして当主を殺した。それから俺たちは逃げ続けて今となっては多額の懸賞金がかけられた盗賊だ。妻も娘もその街に残してこんなところにいる俺たちはお前から見たら滑稽かもしれない。だが、こうするしか他になかった」
「街に残っていたら奥さんや娘さんが領主殺しの家族として嫌がらせされるかもしれない」
「ああ」
「戦争の直後っていうのは皮肉なことにいいタイミングでもあった。戦死したと思われるから」
「そうだ。お前は歳の割には頭がいいな」
「そのせいで親に売られたんだけどね」
「そう、だったのか。それはすまなかった。まあ、これが俺たちの過去だが、要するにただの犯罪者集団ってわけだ」
盗賊の頭がライラックの方を振り向き、歩み寄る。
「お前は...幸せになれよ。スカム商会でお前のことを見たが、運ばれてる途中にダークウルフに襲われたんだろ?生きれてよかったな、坊主。あの嬢ちゃんが一緒ならお前は幸せになれる」
盗賊の頭がライラックの頭を撫でる。ライラックは状況がいまいち分からず首を傾げ、盗賊たちを見る。盗賊たちはみな満足気に笑みを浮かべている。
「俺たちみたいにはなるなよ、坊主」
「〝スタブソイル〟」
盗賊の頭がライラックにそう言った瞬間に、盗賊たちの腹に地中から突如飛び出した三角錐の土の塊が突き刺さる。その土を伝って大量の血が地面に垂れ落ち、。
「...ぇ?」
「あり...がとう、ウィスタリア様」
盗賊の頭が地下道を見ながら、まだここにはいない人物に感謝を伝える。ライラックも地下道に目を向けると、地面に手をついて、顎から地面に涙を落としているウィスタリアを視界に捉えた。
「私は、ただ、連れ去られた弟を、助けるために、魔法を、使っただけよ.....」
嗚咽を漏らしながらウィスタリアが言う。
「あなたたちの過去を聞いて、あなたたちが、ここで死ぬことを望んでいたとしても、殺すのを躊躇えた。私はそれに安心してしまった。今日、私が失ったと思った何かが、まだ残っていることに、安心してしまったの。あなたたちを殺すという行動の中で安心したのよ.....私は」
盗賊の頭が腹を貫いている土の塊を殴って破壊し、前に歩く。土の塊から抜けた男はウィスタリアに歩み寄る。
「それ、でもだ....俺たちの、エゴで、辛い役目を、押し付けて...すまんな......そして、ぁりがとう」
手で顔を覆って泣きじゃくるウィスタリアの頭を包むように後頭部に手を回し、謝罪と感謝を伝える。
「俺たちには、なかった光が、お前さんの中には、ある。その光、だけ、追いかけろ....お前さんに、こちら側は、似合わね...ぇ」
男がそのままウィスタリアの前で横に倒れる。満足気な笑顔をしているが、鼻根を流れる一筋の涙が上書きして、何かを憂いているような、そんな表情にも見える。
「私の、光.....」
ウィスタリアが涙を拭きながら言われた言葉を反芻する。
「お姉ちゃん、どういう、こと?」
「....ライラックが気付けていないならそれは私が言うべきことではないわ。ごめんなさい」
「そうじゃないよ。どうして盗賊の人たちは、自ら死ぬことを望んだの!!」
「それは.....ずっと後悔していたんじゃないかしら。家族を置いてきたこと、貴族の当主を殺したことを」
力が抜けて、重力に従っている盗賊たちを見ながらウィスタリアは言葉を紡ぐ。
「そして時が経ち、やめ時を失ったのよ。戦争は私が生まれる数日前に終わったらしいわ。彼らは私の人生分をなりたくもなかった盗賊として生きてきたの。盗賊が食べていくのは難しいから人攫いにも手を染めた。行き着くところまで来てしまったのよ。逃げずに、その場で罰を受けていれば、どれほど楽だったか.....」
ウィスタリアは盗賊たちに哀憫の念を向け、慈愛に満ちた瞳で盗賊たちを見る。
「あなたたちは立派よ。家族が罰せられることを分かっていたのに1人で罰から逃げた私とは違って愛する家族のために罰から逃げたんだもの。盗賊に身を落としたとはいえ、それだけは胸を張って誇れるわ」
「じゃあ、盗賊の人たちにも光はあったんだね」
「私に魔道具という光があるように彼らには家族に対する愛という光があったのね。彼らは気付いていなかったけれど、それほどまでに愛していたのでしょう。本当に.....人間という生き物は当たり前のことには気付けないものですね」
ウィスタリアが盗賊たちに語りかけるように呟く。
「.....お姉ちゃん、埋葬しよう」
「そうね。丁寧に、そして誰も墓荒らしのできないように、出るときにはここの入口も封鎖しましょう」
2人が周りに置かれてある机や椅子、調理器具などを見回し、ウィスタリアがマジックバッグからスコップを2本取り出し、1本をライラックに渡す。
「僕は...この人たちの生き様を尊敬しようと思う」
ライラックがそう言って穴を掘り始める。ウィスタリアがそれに同意し、ライラックと同じように穴を掘る。
「私もよ」
2人はそれから2時間ほどかけて、14人が入るほどの穴を掘り終えた。丁寧に14人を穴に並べ、土を被せる。
「あなた達に出会えて良かったです。私はあなた達を忘れることはないでしょう」
「人生というのは...難しいですね、ガザニアさん」
「ガザニアさんって...?」
「...僕たちに過去を話してくれた方です。僕がここに来てすぐに教えてくれたんですよ.....」
「そうだったのね.....じゃあ、そろそろ...行きましょうか」
「...うん」
2人は名残惜しそうに地下道を戻って、地上に出る。入口は違和感のないようにウィスタリアが土魔法で埋める。
「お昼に殺してしまった人たちも埋葬しに行かないとね」
ウィスタリアがエアボートを出し、街道を進む。十数分で目的の場所に到着し、辺りを見回す。
「通りすがりの誰かが埋葬してくれたみたいね。本当に申し訳ないことをしたわ」
街道沿いに4つの土の山が並んでいる。
「あのときは...襲われたんだから仕方ないよ」
「そうは言っても...よ」
「僕たちも彼らも、生きることに一生懸命だったんだよ」
ライラックは下を向いて、涙を飲んで言葉を続ける。
「本当に....人生っていうのは難しい」
暗い夜道には鼻をすする音が2つ響いていた。
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