第9話 希望のスキルに縋りたい
「ネットショップ」
美月麗羽がキーワードを唱えると、目の前には日本で見慣れたネットショップの画面が空中に映し出された。操作はタッチパネル方式で使いやすい。
商品を検索してある事に気付く、武器がない。表示されるのは衣服や生活日用品、生活雑貨、食品などである。
充実した品ぞろえで欲しいものが必ずある。しかし武器だけはどこにもない。でもそれは贅沢な要望である。こんな世界でなければどんなに明るい未来が待っていた事か。
武器がないことに気付きため息をついて、商品を無作為にスクロールしていく。ふと目を引いたのはお菓子だった。沈んだ気持ちの回復には甘いものが必要だ。スキルの試運転を兼ねてお菓子を購入することにした。
しかし、購入ボタンを押してもお菓子は召喚されない。どうやら支払いは魔力であり、残高が足りないらしくエラーが出ているようだ。
(魔力......)
魔力の作り方は覚えている。覚えているが......やりたくない。
脳裏に浮かびあがるのは中腰になりお尻を突き出した体勢になった滑稽な兵士の姿。
「イヤあああぁぁ! 無理無理無理むりぃ!!」
それでもお菓子は欲しい。ネットショップの画面を連打しても出るのはエラーだけ。美月麗羽は頭を掻きむしりどうしようないイライラをただただその内に蓄えていく。
(変なプライドなんて捨てないとダメだわ、魔力を溜めるため、魔力を溜めるだけ)
美月麗羽は鍵がかかっているドアに更にソファーなどでバリケードを作り物理的にもドアが開かないようにして、ただただ広くなった部屋でプライドを捨てた。
足を肩幅に開き重心を下に降ろす。
1度深く深呼吸して吐き出す。やっぱり感覚が掴めないせいか魔力を感じる事はできない。
今度はあの時の兵士がやった動作をトレースして、両手で大きく円を描くように動かし両手が腰の位置まで来たら今度は人差し指と中指のみをまっすぐ伸ばし手を前に押し出す。それ同時に息を吐きながらお尻は突き出すように後ろへ。
こんな事はキャラじゃない美月麗羽がおふざけでも絶対にやらなかった事だ。蟹股になるのも落ち着かないし、お尻を突き出すのは単純に恥ずかしい。
それでもネットショップを活用するためには実行するしかない。
1連の動作を終えるとジンとへその当りが熱くなって、その熱がお尻に移りじんわりと温かみを持つ。
(きっとこれが魔力なんだ)
美月麗羽の長所は真面目なところである。
今の感覚を忘れない内に何度も繰り返していく。次第に美月麗羽のお尻はジンジンと熱を持って膨らんでいく。
(ちょっと待って。ちょっと待って! これ、ヤバいかも)
美月麗羽はお尻の違和感にじっとりと汗をかいていた。
「あぅ、ネットショップ! ネットショップぅ!」
美月麗羽のキーワードによりネットショップが目前に表示される。
「えっと......さっきのお菓子どこ? んぅどこどこ、ちょっとまってヤダヤダぁおなら出そう」
足をジタバタさせながら必死に堪える。美月麗羽はオナラとは恥ずかしいものという教育を受けて育ってきた。そんな美月麗羽にとって1人でいる時ですら関係なくオナラはとても恥すべき行為なのだ。
美月麗羽はギリギリのところでお目当てのお菓子を見つけて勢いよく購入ボタンをタップした。
購入ボタンを押したと同時に、美月麗羽に似つかわしくない効果音が部屋に鳴り響き、お目当てのお菓子が美月麗羽の可愛いお尻から飛び出してきた。
お菓子の発出は驚異的で美月麗羽のパンツは無残にも破けた。スカートは余韻を残してひらひらと踊ってから静かになった。
美月麗羽はワナワナと後ろを見て、そこにお菓子がある事を確認して今度は自身の股の間をスカートをめくり上げて覗いてみる。
まるでふんどしのように垂れ下がるレース付きの布切れを見て、美月麗羽はとても悔しくて悲しくて、どうしようもなく惨めに感じて崩れ落ちた。
「うぅうえぇぇぇん」
顎に力を入れて泣かないように堪えたがダメだった。目頭から一粒の涙が流れ落ちた。
喉の奥が熱くなっては我慢なんてできようはずがない。すでに枯れてしまったはずの涙腺が壊れたようにボタボタと流れて、嗚咽と共に首元を濡らしていった。
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