旅は道連れ、世は非情、お前のものは私のものだ

「っと……あんまゆっくりしてる場合でもないか。やることやらなきゃ」


 散々NANA拍子を落下ダメージで始末した私は、休憩を後回しにして動き出す。

 だいぶ時間を無駄にした。私はただ妹を探しにきただけなのに、なんでPKと戦わされなきゃあかんかったのやら……。


「ほんっとに面倒なことさせてくれる。フユのところに連れて行くわけにもいかないから、倒すしかなかったし……おかげで死にかけたし」


 愚痴りながら屋上から飛び降りる。

 そのまま地上に降りると勿論落下ダメージで死ねるので、ビルの外壁のでっぱりに足や指を引っ掛けて、勢いを殺しながらの降下だ。



 先程のナナとの戦いで、屋上から殴り落とされた私が生きていたのも同じカラクリである。


 まず私は、あのロケットパンチに殴られる直前にハイジャンプを発動。自ら背面に錐揉み回転しながらジャンプし、さも殴られて吹き飛んだかのように見せかけていた。

 ただし、ロケットパンチで相手を殴った感触が、ナナの五感にフィードバックされていることを懸念して、完全な回避はせずに多少は当たってやったのだけれども。そのせいでHPがごっそり持っていかれて、残りHPは9しかない。危ないところだった。


 その後、落下しながら今私がそうしているように、ビルの窓枠やらに手足を引っ掛けながら降下。ナナの感知能力外まで一旦離れて奇襲することにしたのだ。

 そこからの展開は知っての通りである。降りてきた時と同じやり方で、ビルの壁をハイジャンプを駆使してよじ登った私は、なんか知らんけど見えないお友達との会話に夢中になっていたナナを強襲。お返しとばかりに屋上から突き落として勝利をものにしたのだった。


 問題はナナのPERによるプレイヤー感知範囲がどの程度のものなのかと言う事だったが、念には念を入れて私は地上まで一度降りていた。その甲斐あってか、ナナは私が死んだと勘違いしてくれたらしい。

 とんだ詰めの甘さだ。ちゃんと相手が死んだかどうか確認するのは基本中の基本だというのに。ゾンビゲーとかやったことないのだろうか。ダブルタップを怠ってはならない。


「たかーい授業料になっちゃったね、ナナ」


 ナナの落下地点まで降りてきた私は、足元に落ちている手のひらサイズの立方体を拾い上げながらそう呟く。



[散々NANA拍子のアイテムボックス]



「へえ、死んだらこういう形でアイテムドロップするんだ」


 ナナから逃げ回ってる最中にヘルプで確認したので知ってはいたが、ギアーズベルトでは死ぬとデスペナルティとして、装備品を含めた所持アイテムの半分をドロップしてしまうらしい。

 じゃないと高レベルエリアに突撃してレアアイテムをゲットしたら死んで帰還……なんてクソムーブが成立してしまうので当然の措置だろう。


 で、PK……プレイヤーを殺してナナのように名前が真っ赤っかになっていたプレイヤーは、このデスペナルティがさらに重くなる。

 死亡時の所持アイテムのドロップが、半分ではなく全部になってしまうのだ。


 プレイヤーを殺して相手の所持品を半分奪えればかなりの利益になるが、返り討ちにあえばこの通り、大損こいて何もかも失うというわけだ。


「さてさて中身は……うはは!」


 変な笑い声が出てしまった。

 流石に色々見たことのないアイテムを沢山持っていらっしゃる。っていうか持ちすぎだ。荷物整理出来ないタイプだな、あの女。

 しかしお陰でこちらが潤うのだから有難い話だ。レッドネームプレイヤーを倒しても、こちらの名前は赤くならないし、至れり尽くせりである。


「さーて、中身を全部私のインベントリに移して……って重っ!!?」


 ナナの遺品を自分のインベントリに根こそぎ移動した瞬間、全身にのしかかる重量感で身動きひとつ取れなくなる。


「なんなの……!? あ、重量超過!? このゲーム、インベントリに重量制限なんてあったの!?」


 なんてこった。これじゃ折角の戦利品が全部持ち帰れない。しかしこのまま動けなかったらアンヘルの餌になるのがオチなので、泣く泣くアイテムを全部ナナのアイテムボックスに戻した。厳選して持ち帰るしかないだろう。


「くそー……まさか重量制限があるなんて……STRとVITを上げたら、所持重量が上がるのね。あと特定のタレントにも所持重量を増加出来るものがあると。はいはい」


 ヘルプにざっと目を通して息を吐く。

 せめてナナを倒した時に経験値も入ってくれてたら良かったのに。談合の苗床にしかならないので、プレイヤーを倒しても経験値が入らないのは仕方ないが。とにかく今の所持重量で我慢するしかない。


「まあ、私が欲しかったアイテムはコレだけだから、別に他はどうでも良いんだけど」


 私はとあるアイテムを取り出して、試しにその場で広げてみる。

 スイッチを押すと、折り畳み式の機械の翼が勢いよく展開し、見覚えのあるフォルムへと変貌した。

 そう、ナナが使っていたグライダーだ。


「これこれ、これが欲しかったのよ」


 あとは適当に、回復アイテムや素材アイテム、それから設計図? なんの設計図か知らんけど、貴重そうなアイテムを貰っていく。


「うっ、スナイパーライフル重っ。これひとつで重量ほとんど使うんだけど……勿体無いけど置いていくか。どうせ使わないし」


 どうやってこんなクソ重い銃を持ち歩いていたのだか、ナナのヤツ。ただSTRやVITに振ってるだけじゃなく、所持重量緩和のタレントも取っていたのだろうか。

 そんなことはどうでもいいか。


「さて、テスト飛行だ」


 私はハイジャンプで再びビルの屋上へ。

 外側から登れば数秒で屋上に辿り着く。中を通ってきたあの苦労はなんだったのかと思いたくなるね。普通は探索してアイテムをゲットしたり、雑魚を狩ってレベリングするのが目的なので、私の難癖は本当に難癖でしかないのだけれども。


 それから屋上にて、ナナのドロップから手に入れた[ナノリペア・インジェクター]でHPを回復。

 その後に、ようやくグライダーで飛んでみることにした。


[ヴァリアブル・ウィングス]

[グライダー]

[レアリティ:変遷級]


 持ち手を両手でしっかりとホールドし、屋上から勢いよくダイブする。


「きゃー!」


 全身で風を切る心地良い感覚に声が漏れる。

 地上を走るのよりも全然早いし、高度があれば遠くまで見渡せるから人探しにも有用だ。


 これこれ、これだよ。

 この広い廃墟街でフユを探すために、これがどうしても欲しかった。じゃなきゃ、あそこまで無理してナナを倒そうとはしなかった。いや、嘘だ。何度も言うけどフユのところにPKを連れて行きたくないから、どのみち殺してただろうけども。


「ハイジャンプっ」


 高度が落ちてきたので、グライダーを畳んでから手頃なビルの外壁に足を引っ掛けて跳躍。そこからグライダーを展開して飛行再開。これでENがある限りは、ずっと空から高速移動しつつフユを探せる。うーん、苦労した頑張りが報われるこの瞬間がたまんない。脳がバカになりそうなくらい気持ち良い。


 それから数分後、


「あ! あのビークル!」


 とうとう私は、フユを乗せていた車両を発見したのだった。

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