幕間 アメリアとルナ

 リクが去っていき、人混みに紛れ見えなくなる。彼が見えなくなるまで、ルナは彼の背中を見ていた。そんなどこか寂し気な彼女にアメリアは歩み寄る。

 

 「行ってしまいましたね」


 「……」


 いつも通り、アメリアの言葉に反応はしないが、彼女にとっては既にそれは慣れ親しんだことであるため、意に介しはしない。


 「レナ、それでは私達も行きま……しょう、か」


 語りかけながら、横からルナの方を見たアメリアの言葉が詰まる。彼女の位置からは、フードで隠しているルナの顔をすべて見ることはできなかった。それでも僅かに確認することのできた自らが主人と決めた少女の口元を見たことで、思わず言葉が詰まってしまったのだった。


 「リクは、優しい方でしたね」


 「ん」


 偶然森の中で出会った少年。彼がいなければアメリアは無事でいたかどうかはわからない。もしかしたら、ルナは盗賊を倒した上でアメリアの事も助けるつもりだったのかもしれない。だが結果的には通りかかったリクが魔物の群れをすべて倒し、ルナに合流したことで帝都までの2日間だけ同行することになった。


 「彼は強い。1人でも大丈夫ですよ」


 「ん」


 アメリアはリクの戦闘をルナと違い2度見ていた。彼女からすれば、オーガを楽々と討伐したリクの実力は自分とは比べ物にならない。それでも彼女だけは知っている。あの戦闘でさえ、リクが本当の力を全く見していないことを。キラービーの大群を全滅する時に見せた力。リクはひょっとすると、金等級どころか、更にその上を行く冒険者となるのではないかと、アメリアは確信に似た思いを抱いていた。


 「レナ、気になさらないでください。また会えますよ」


 「……」


 旅の会話の中でアメリアはリクに彼自身の事を尋ねていた。そこでリクは王国出身だと言うことは認めていたが、具体的な出身地を彼女達に教えていなかった。それでもアメリアはローブの下から見える、まるで忍のような特徴的な防具と刀を戦闘に用いることから、大まかな出身地に当たりを付けていた。


 「やはり、彼が気になりますか?」


 「……ん」


 そもそもの話、ルナの事を長く見ているアメリアからすれば彼女のリクへの対応は異常だった。基本的に誰にも興味関心を示さず、感情を出さない彼女は、初めて会った時から去ろうとするリクを引き留めた。仮に彼女が引き留めていなかった場合、アメリアが同行を申し出ていたのだが、アメリアは自分の主人の行動に内心では驚愕していたのだった。自らの戦い方を進んで見せようとした事。別れ際に再度引き留めた事。ルナのリクへの興味が異常に高いのは、騎士でありながら従者でもあるアメリアからすれば一目瞭然だった。


 「リクは、あの御方に似ていましたね」


 「……うん」


 アメリアにとってルナがリクに興味を示す原因は明らかだった。リクは、彼は似ていたのだ。見た目は同じと言うわけではないが、喋り方や雰囲気。そして大人数相手に会話が苦手な所や、彼女の身体を見ても何も変わらなかった点を含め、ルナにとって最も大切な人と重ねられる部分が多々あった。もしあの御方が今もここにいれば、自分の主人の人生は全くの別物になっていただろう、とアメリアは思う。


 「――さあ!私達も行きましょう」


 「ん」


 頭に湧いて出た雑念を振り払うかのように、元気に声を出したアメリアとルナは帝都の中を歩き出す。向かう先はベンドルフ帝国の皇帝ブラキム・フォン・ベンドルフが待ち構えているであろうベンドルフ城。14歳の少女には余りにも重すぎる勇者と言う肩書。そんな彼女の為にその身を捧げると誓っているアメリアに迷いは無い。数年ぶりに主人の微笑みを見る事が出来た彼女は今、最高に気力が満ちていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る