第11話 セインとドノバン

「はーはー、死ぬかと思った……」

「ふふ、よくぞ私の鍛錬についてきましたね。流石は私の弟ですね!!」

「ええ……ランニングして死にかけている時にいきなり剣で斬りかかってきた時は驚きましたし、また、魔物の巣に放り込まれた時は泣きたくなりましたよ……」



 しかも、ずっとアクセラレーションを使ってである。


 ヒルダ姉さんの特訓から二週間が立った。地獄のようなランニングと、ヒルダ姉さんとの模擬戦、山や谷へいっては魔物狩り、そして、なぜか、ヒルダ姉さんお手製の御飯(味のない鶏肉と生卵とか炭とかした肉)を食べた後におしゃべり、(添い寝もするとか言い出していたがさすがに恥ずかしいのでことわった)などをしていた。



 だけど……まだ一回も勝つどころか魔法を使わせてすらいないんだよな……



 ランニングしているから体力は確実についているはずだが、それだけである。いまいち強さに実感が湧いていないがヒルダ姉さんは満足そうだ。

 前世の運動部よりははるかにがんばっているが、この世界の普通の兵士の訓練がどんなものかわからないから自分の強さがいまいちわからない。



「ふははは、まだヒルダに基礎練習をしてもらっているのか、なさけないなぁ。俺はもう応用までいってるぜ。だからさ、そろそろ俺にもマンツーマンで教えてくれよ。そんな足手まといは放っておいてさ」

「さすがはドノバン様です。厳しいと有名なヒルダ様の特訓を耐えるなんて、天才です」



 やってきたのはにやにやと笑っているドノバン兄さんと、ない胸を押し付けているイザベラだった。

 そんなことよりだ……



「え……これが基礎? 何回か死にかけたんですけど……」

「ふふふ、そうですね。まだまだ基礎です」



 うへぇ……本当なの? ビリーザブートキャンプの100倍厳しくない? 異世界やばいよう……

 てか、ドノバン兄貴もヒルダ姉さんの特訓を受けているのか……まずいな……差は広まるばかりじゃないか……



「はは、あいかわらず情けない顔してやがるなぁ。なあ、ヒルダ。そんなやつは放っておいてさっさと俺に稽古をつけてくれよ。もちろん、昼だけじゃなくて夜の稽古もしてくれてもいいだぜ」

「ドノバン様、申し訳ありません。今はセイン様につきっきりでして、あなた様を見る余裕は……」

「俺の命令が聞けないってのか!!」



 怒鳴りつけてくるドノバンに思わずびくりとしてしまった。



 くっそ、セインの記憶が潜在的に残っているのか? 常識は覚えていないくせにこういうことだけは覚えているみたいだ。


 だけど、俺はこのままでいいのか? よくないよな!! こいつに勝てるかはわからない。だけど、権力に頼って命令しているこいつに、色々と面倒を見てくれたヒルダ姉さんが困っているんだ。



「やめなよ、兄さん。ヒルダ姉さんがいやがっているでしょ」

「は? ヒルダ……姉さん……」

「?? ドノバン様たちは二人兄弟では……?」



 やべえ、つい姉さん呼びしていたけど、この人は別に姉でもなんで何でもない師匠何だった。

 俺が顔を真っ赤にしていると、ドノバンのやつが胸元をつかんできた。あれ、おもったよりも遅いな。手加減してくれているんだろうか?



「言っていることはよくわからないが、俺に口答えとは生意気だなぁ。お前の相手をしてやるよ。どれだけ強くなったか見てやろうじゃないか。お前が負けたらヒルダも見限るだろうよ」

「は……?」



 突然の行動に俺はどうこたえようか迷ってヒルダ姉さんを見ると……険しい顔で唇を固く結んでいた。

 ああ、そうだよね。力が強くても権力には逆らえないんだ。だったら、俺が守るんだ。



「わかった。その代わり、ドノバン兄さんがまけたらヒルダ姉さんは俺の専属になってもらういいね」

「は、言ったな!! では一時間後に訓練場に来い。久々にかわいがってやるよ」

「ドノバン様のかっこいいところ楽しみにしてますね」



 二人が去っていったのを見計らって、俺はヒルダに声をかける。



「ごめん、俺のせいでヒルダ姉さんに迷惑がかかっちゃった……俺が舐められているから……ぐええ」

「うへへ、セイン様が私のために……それにお姉ちゃんと呼んでくださって嬉しいですよ」



 思いっきり抱きしめてきたヒルダ姉さんの表情は先ほどまでのが嘘だったかのような満面の笑みを浮かべていた。

 むっちゃ余裕そうなんですけど。



「あれ、さっきまで悔しそうなかおしていたのになんで……」

「? ああ、セイン様が私をご家族の前でも姉呼びしてくださったのが嬉しくて、思わず笑ってしまいそうになったので空気を読んでこらえていたんです。うふふ、私の気持ちは届いていたのですね。よかったです」



 あまりのよろこびようについ癖で姉と言ってしまったとはいえない雰囲気である。だけど、ヒルダ姉さんのために剣をとると決めたことは嘘ではない。



「大丈夫です。今のあなたならば必ず勝てますよ」

「ありがとう……ヒルダ姉さん……」



 こんなにも思ってくれる彼女のためにも負けるわけにはいかないと誓うのだった。




 

 訓練場にいくと城の兵士たちだけでなく、メイドもまた集まっていた。なんでこんな大規模に……と思うと向かい合っているドノバンがにやりとわらった。



「はは、立派になったお前の姿を皆に見てもらおうと思ってなぁ」

「嬉しいね、お礼に兄さんが無様に負ける姿をみんなにみせてあげようじゃないか」



 皮肉で返すとつぶやくとおもいっきり睨まれた。そして、会場はというと「ドノバン様―!!」「かっこいいところみせてくださいーー」と彼を応援する声が多いようだ。


 まあ、俺はみそっかすだからね……

 

 そもそも次期後継者はドノバンなのだ。仕方ないだろう。大きくため息をついた時だった。



「セイン様がんばってくださいーーー!!」



 声援の方を振り向くとシグレが一生懸命声をはりあげていてくた。しかもいつ作ったやら旗には『セイン様 がんばって♡』と『セイン様、こっち見て!!』と縫ってある。周囲から奇異の目で見られているというのに一切気にしていない。

 感謝の気持ちを込めて彼女に手を振って新たな決意と共に木剣を構えて向かい合う。



「それではこれより模擬戦を始めます」



 審判を買って出てくれたヒルダ姉さんがこちらを見つめ頷いてくれたのは気のせいではないだろう。

 二人の信頼をもって俺は剣を構えて戦う。



「は、ほえずらかかせてやるよぉ!!」

「そんな見え見えの攻撃……まさかフェイント!!」



 ドノバンが斬りかかって来るけど思ったよりも遅いんだけど!?






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