第4話 シグレ(ヒロイン視点)

「セイン様……本当に気持ちよさそうですね……」



 シグレは自らの大きくなりすぎた胸に顔をうずめて幸せそうに眠っているセインを抱きしめながらベッドに横になっていた。

 いきなり気絶したかのように眠ってしまったが、夜更かしがたたったのだろうか?



「妾の子と言われ……ご自分もお辛いでしょうにこんな私に良くしてくださって……昔から本当にお優しいですね……私だけはあなたの味方ですからね」



 セインが自分の胸元にいる安心感と共に彼女は昔を思い出す。



 シグレがギャンガー家のメイドになったのは今から数年ほど前のことだった。今ほど胸も大きくなく幼かった彼女は子供ながらに病気がちな両親の助けになればと思って、働くことにしたのだった。

 歳も近い方がいいだろうと、セインとドノバンのどちらかに仕えることになった彼女は緊張しながらも挨拶をする。



「シグレと申します。よろしくお願いします!!」

「はっ、平民が俺のメイドだと……? しかも、その年で胸も膨らみかけてるじゃないか? 俺はいらんな」


 ドノバンというガタイの良い少年の心無い言葉にシグレはが体を硬くした時だった。


「兄さんさすがにそれは失礼じゃないかな?」



 もう一人の少年がかばってくれたのである。それがセインとの初めての出会いだった。



「なんだ、妾の子にすぎないお前が俺にはむかうのか? まあいい、お前には平凡な女がお似合いだろうよ。俺はもっと可愛くて胸の小さい女をメイドにしてもらうんだ」


 そういうとドノバンはシグレに興味を失ったのかそのまま去っていく。そんな彼を見送ってセインが優しく声をかけてくれた。



「兄さんがごめんね、僕はセイン。その……妾の子だから、あまり力はないけどよろしくね」

「先ほどはかばってくれてありがとうございます。優しいご主人様に仕えることができて幸せです」



 そうしてシグレはセインのメイドになったのだった。彼のメイドになって将来的にはエッチなこともしてしまうかも……などと思いつつ忙しくとも幸せな生活が続く。



 だけど、それはいつまでも続かなかった。

 年齢を重ねるごとにドノバンの体は大きくなっていき、力も強くなって横暴な面が目立つようになってきた。それに引きかえ、セインは元々心優しいところがあるからか、戦いなどは苦手で、ことあるごとにドノバンにいびられていくのであった。

 そして、魔力を持つ女性を守り、男は剣をもってして敵と戦うべきという考えのある貴族の中でそれは致命的だった。



「男なのに剣もろくに振れないなんて……やっぱり、この家を継ぐのはドノバン様なんだろうな」

「所詮妾の子だもんな……」



 この世界の男性は頭の良さもだが、それよりも剣の技術などを重視する傾向にある。というのも、基本的な戦いは力の強い男が女性を守ったり、時間を稼いだりして、攻撃は魔法の使える女性が行うからだ。

 強力な魔力を持つものが多い胸の小さい女性を守る力をもっているということは貴族のステータスの一つであり大事にしているのだ



「セイン様……訓練だけでもしませんと……」

「でも……どうせまた、義兄さんにいじめられるんだ……」



 心優しかったセインは増長したドノバンに訓練と称してぼこぼこにされることが増えてすっかりおびえてしまったのである。

 もちろん、シグレも遠回しに抗議はしたが、胸が大きくなってしまっている上に平民出身のメイドの話など彼が聞くこともはずもなく、むしろ首にすると脅されてしまい、彼女にできることはセインの傷が長引かないように治療することくらいだった。



「せめて、私の体が普通だったら……」



 ドノバンにいじめられた夜はセインが「おかあさん」と泣いていることを知っていた。幼い彼はまだ母に甘えたかったのだろう。

 そんな彼の母のかわりにはなれないがだきしめることくらいはしたかったがこんな大きな胸ではそれもできなかった。

 だけど、彼に決定的な変化がおきる。


 シグレががいつものように、ドノバンの専属メイドであるイザベラに意地悪をされていたときだった。ドノバンのお気に入りであり、美しい胸を持ち羨望の視線をうけている彼女はこういう風に仕事をおしつけてくることが日常茶飯事でありメイド仲間たちも逆らえないのだ。



「君さ……貴族である俺にそんな舐めた口をきいていいと思ってるの? そもそも、自分の仕事すらもできないなら専属メイドなんてやってる余裕ないんじゃない? やめたら?」



 セインは強い意志で自分をかばってくれたのである。イザベラがいつものようにドノバンを引き合いに出しても一向に引くことはなく言い返す。



 その姿はまるで別人のようにかっこよかった。



 思わずこれまで可愛い弟の様に思っていた彼に男性の姿を見て、胸がドキリとしたのは気のせいではないと思う。まあ、その胸のおかげでこの気持ちが報われることはないのだけれど……



 そして、なぜか男が魔法を使えないということを知らなかったセインに色々な説明をしていると、とある夢を思いだした。



『シグレよ……私の加護を得たばかりにあなたには苦労をかけました……ですが、いつの日かあなたの救世主となる人間が現れます。その人を支えてください……そうすれば……』



 白い空間でそういった女性の顔はモヤがかかっていて見えなかったけれど、ヘスティアの肖像画と同じ顔をしていたように見えたのはきのせいだっただろうか……

 セインが救世主なのかと思ったがあわてて否定する。だって、夢の声は『いつの日かあなたの救世主となる人間が現れます』といったのだ。セインとはもう何年もいる。『男は魔法がつかえないのか?』と聞いてきたので違和感こそ覚えたがおそらく気絶したショックで記憶が混同しているだけだろう。



 昔を思い出していたシグレは自分のベッドで横になっているセインを抱きしめる。




「だけど……私はあなたが救世主だったらなって思っているんですよ」



 先ほど彼に触れてもらった胸が熱くなっているのを感じながらシグレは微笑む。自分の大きすぎて醜くなった胸を美しいといって抱きしめてくれたのだ。



 とっても幸せでした……



 この胸がばれたらセインにも嫌われてしまい屋敷を追い出されることも覚悟していた。なのに彼は美しいと言ってくれて……しかも、抱きしめてくれたのだ。もう、一生こんな風に異性に触れあえるとは思わなかった。

 シグレの愛読書の様に自分が異性とイチャイチャすることはないのだなとあきらめていたのだ。

 だけど、セインは幸せそうに顔を自分の胸にうずめてくれたのだ。しかも私のために世界を変えるとまでいってくれて……



「セイン様……お慕い申しています」



 彼をみつめるだけで愛おしい気持ちが溢れてくる。その豊かな胸を顔に押し付けつつ、何げなく、彼の傷つけられた腹部に触れた時だった。

 なぜか治せると直感が訴えてきたのだ。そして、その感覚に身を任せると手のひらから暖かい光があふれ出して、彼の傷を癒した。



「これはまさか……わたしが魔法を……巨乳なのに?」



 それはありえないことだった。魔法のような特殊な力はヘラ様の体系に近い胸の小さい女性にしかつかえないとされている。だからこそ、美乳の女性が優遇されているのだ。しかも、火や風をおこすことはできても傷を癒すなんて聞いたことはなかった。それができたのは……



「これはまさか、伝承の聖女様が使っていたという神聖術では……セイン様……この力があれば私もあなたの力になれるかもしれません」


 この世界を変えてくれると言ってくれた彼のためにシグレは一つの決意をするのだった。






 面白いなって思ったらフォローや応援くださるとうれしいです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る