青色メテオ

「う~ん。さすがに夜の学校って不気味だわ」


 懐中電灯片手に屋上へと続く階段を昇りながら、塩崎涼子しおざきりょうこは独りごちる。

 T県S市の早乙女女学園に赴任して四年目。国語を担当し天文部の顧問をしている。もっとも、涼子自身は天文学とはほぼほぼ無関係で過ごしてきたのだが、懇意にしていた先輩の教諭が退職する際に顧問を引き継いでほしいと頼まれたのだ。


『だ~いじょぶ、だいじょぶ。天文の知識なんかなくったって生徒の自主性に任せているって言えば、顧問っていってもお飾りで十分だから』


 なんて言われて断れなかったのだ。

 まぁ、実際の話、文化祭などで発表会をする程度の愛好会的な部活動なので特に専門知識などなくても問題はなかったが。

 と、静まり返った校舎にスマホの着信音が鳴る。


「わわっと!」


 いつも以上に大きく聞こえる着信音に、静かな場所だけに変に気遣いして慌ててスマホを取り出すと、画面にはY県の実家にいる高一の弟、雄介ゆうすけの名前。


「もしもし? こんな時間にどうしたの、雄くん」

「あ、ねーちゃん。今、電話大丈夫か?」

「うん。大丈夫」


 と、言いつつ反響する声に気づいて少し声を抑える涼子。


「なんか急用?」

「急用ってことでもないんだけどさ。ねーちゃんって確か天文部の顧問やってたよな? 星とかに詳しい?」

「う~ん。顧問っていってもお飾りだから私は詳しくないのよね。あ、でも生徒たちは詳しいから聞けばわかると思うけど」

「そっか。いや、ほら12日の今日って流星群が一番よく見れる日じゃん? で、俺も見てたんだけど、なんか妙にはっきりと青く光った流れ星を見てさ。なんだろうと思ってネットで調べてみたけどよくわからんかったから、ねーちゃんなら知ってるかなぁと思ってさ」

「青い流れ星!? へぇ! 雄くん見たんだ! 本当に!?」

「な、なんだよ、ねーちゃん。急に大声出したりして」

「あ、ごめん、雄くん。実はさ。うちの天文部に伝説というかおとぎ話みたいなのがあってね。桃色ピンクの流れ星を見た女の子と青色ブルーの流れ星を見た男の子は、二年後に運命の出会いをしての流れ星を一緒に見るんですって。もしかしたら今日、どこかで桃色ピンクの流れ星を見た運命の女の子がいるかもしれないよ?」




――了――

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思春期流星群 維 黎 @yuirei

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