第16話 予期せぬ伏兵

アクレイは改めてそのことを認識する。


だが、その時。


時折枝が風にそよぐ音だけが聞こえるだけだった静かな森の中に、何かが擦れ合い、草木を踏みしめる音が聞こえ始める。


それに気づいた二人ははっと我に返り、あたりを見渡す。


その音は一つではない、いくつもの音が連なっている。


音は足音と、甲冑のぶつかりあう音のようにも聞こえ、一瞬兵士たちが来たのではと二人に思わせた。


だが、違う。


近づく音はあまりにも雑多で、無秩序。


なにかが近づいているのは確かだが、少なくとも兵士たちではない。


「俺が見てこよう。二人はここにいなさい」


不安げな顔で身構える二人に対し兵士はそう言うと槍を手にして茂みに向かう。


ややあって、


「こいつらは!二人共!逃げるんだ」


茂みの奥から兵士の叫びが聞こえ、続いてうめき声と鈍い音が聞こえる。


茂みの向こうで何かが起こっている。


二人は顔を見合わせるが、言われた通り今すぐ逃げるべきという理性の警告よりも未知への不安に突き動かされ、疲労の残る体に鞭打って立ち上がると、恐る恐る茂みへと向かう。


その向こうに見えた光景にアクレイとルアンナの表情が凍りつく。


そこにいたのは悪戯子鬼ケルツによく似た、しかし明らかに違う怪物。


顔つきは悪戯子鬼ケルツとそう変わらないが、ケルツよりも一回りも体格が大きく、手にしている武器も棍棒ではなく、鈍い輝きをもつ剣や盾。


その姿に二人には心当たりがあった。


「まさか、ガテ・ケルツ?」

悪戯鬼ガテ・ケルツ


それは人間たちと戦って生き延びたり、歪みの影響を長く受けた悪戯子鬼ケルツが力を得た存在とされている。


悪戯子鬼ケルツよりも体が大きく、知恵をつけ、力を増しているが、最大の特徴は、鉄への抵抗力を身に着けたこと。


手にしている錆の混じった剣や盾がそれを表している。

しかも一体ではない。一…ニ…五匹はいる。


悪戯鬼ガテ・ケルツ達は転がっている兵士を取り囲み、足蹴にしている。


「!」

アクレイたち同様こちらを見つけた悪戯鬼ガテ・ケルツの何体かはにやりと笑みを浮かべるとゆっくりと歩み寄ってくる。

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