第12話 戦女神の加護

フェテシュは卑怯な振る舞いを嫌う高潔なる戦の女神であるが、同時に戦術や知恵の女神でもあるという。


そのため、一対一の決闘においてのだまし討ちなどの卑劣な手段は嫌われるが、他方で戦場において知恵を絞って数の不利を補う事、強い敵に挑むことははむしろ好まれるとされる。


祈りを終えるとルアンナは、


「なんか力が湧いてきたみたい」


といささか頬を紅潮させ、興奮をにじませるがアクレイは、


「そ、そうかな」


と首を傾げる。


そんなアクレイをルアンナは睨みつけ、


「そんなこと言ってると女神様、力を貸してくれないわよ」


「わかってるって」


カシュクス教の浸透によってに唯一神以外の信仰が禁止され、一時は廃れた他の神への信仰もソーレチェアーノ帝国…否、ファルテス教団との戦いで他の神々が人間界に降臨し、力を貸した事実とその戦いで帝国が衰退したことで蘇った。


人は祈りを捧げ、神に己の力を捧げることでその代わりに神から力を与えられる。


強い信仰心で祈れば相応の力が与えられる。


しかし、その力を自在に使えるのは修行を積んだ神に仕えるもののみ。


だがそうではないものでも真摯に信仰厚く神に祈れば時に力を貸してくれることもある。


アクレイはカシュクス教の加護のあった家に育ち、神の存在を間近に感じながら育った身。故に唯一神以外の上に対して祈ることへの抵抗がある。


ルアンナに口答えしながらもアクレイは心のなかで戦女神に祈る。


祈りを終えた二人は改めて装備を確認する。


槍の穂先や剣の柄の留め具に緩みがないか、弩の引き金を引いて動作を確認すると、木の陰からすみかの様子をうかがう。


見張りの悪戯子鬼(ケルツ)たちはまだこちらに気づいていないようで、すみかの周りをうろつきながら時折、周りを見渡している。


「あの茂みに隠れて弩で狙いましょう」


「うん」


二人は木の陰に隠れて様子をうかがいながらこっそり悪戯子鬼ケルツたちに近づく。


うまく見つからないうちに茂みにたどり着くと、二人は茂みの中から改めて悪戯子鬼ケルツたちの様子を見る。


まだケルツたちは気づいた様子はない。


二人は顔を見合わせてうなずくと、音を立てないよう慎重にそれぞれの弩に矢を込めると、無言で指図して攻撃の分担を決める。

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