第7話 ルアンナの提案

悪戯子鬼ケルツはそんな魔物ファルダーの中で最も存在が身近で、あらゆる場所に発生し、元の妖精としての気質のまま、家畜や人間の子供相手にいたずらを働く。


とはいえ、元の妖精が肩に乗るほどの大きさとされているのに対し、悪戯子鬼ケルツはその数十倍の体格。


その体格で出来が粗末とはいえ棍棒などを手にして悪戯をするのだから家畜や農作物への被害は妖精たちによるものの比ではない。


それに悪戯子鬼ケルツたちによって人や動物が命を落とせばまたそれが新たな歪みの発生源となり、その規模が拡大する。


もともと悪戯子鬼ケルツという名称は自然のいたずら者である妖精達を意味していたのだが、いつしかこの歪みの犠牲者である小さな魔物達のことを意味するようになってしまっていた。


そしてそんな悪戯子鬼ケルツは村の安全、そして収入源を守るためには無視できない存在なのである。


「そうか、偵察を出せ。後、村人達に遠出をしないように言っておく必要があるな」


「はい」


そう言うと隊長はアクレイたちの方へと振り返る。


「二人もだ、悪戯子鬼ケルツを見かけたらまず俺たちに知らせるんだ」


「はい」


素直に返事をする二人に隊長はうなずき、詰め所の方へと戻っていく。


練兵場の中で鍛錬に勤しんでいた兵士たちも手を止め、慌ただしく動きはじめる。


そんな慌ただしくなった詰め所を二人は後にし、長老の元に向かう。


その途上、ふとルアンナが笑みを浮かべてアクレイの顔を覗き込む。


「ねぇ、アクレイ。あたしたちも悪戯子鬼ケルツを退治しない?」


「ええっ!」

突然の提案にアクレイは驚く。


「そうすればみんなあたしたちの力を認めるしかないでしょ」


「それはそうだけど、まだ早いんじゃないかな…」


アクレイの戸惑いは当然である。


二人ともまだ藁人形を使って稽古をしているような段階で、動く敵を相手をしたことなどない。


「なに言ってるの、どうせ村を出て冒険者になるのならいつかは戦わないといけないんでしょ?」


そう言われたらアクレイとしては返す言葉はない。


「そうと決まったら長老様に相談よ」


そう言って先を歩くルアンナの後ろ姿を眺めながらアクレイも歩を進める。


仕方ないか。


アクレイは説得を諦め、こころなしか歩みを早めているルアンナについていくが、その間に彼は考えを改める。


自分よりも長老のほうがわかっているはずだと。

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