第8話 リーフの危機


 川沿いの砂利道を歩いて行くと、ヨモギやアスパラガス、紫蘇の葉まで群生していた。


「宝の山じゃないか」


翼はそれぞれの袋によもぎ、アスパラガス、紫蘇の葉をパンパンに詰めた。


マジックバッグのリュックを背中から下ろして、3つの袋をしまっておく。


「ユキ、次に近いのはエリュシオン王国だったよな」


「うむ」


「森に入ったら、さっき詰んだ野草でご飯にするか」


「道端の草を食べさせるのか」


ユキはあからさまに嫌そうな顔をしている。


「くさたべるの」


「ほら、リーフが好き嫌いしたら、どうするんだ」


「とにかく肉がないなら、我がひとっ走り調達してくる」


「分かったよ。じゃあ、この先の森の入り口を入って真っ直ぐ歩いて行くから見付けろよ」


「うむ」


ユキは物凄い勢いで、森の奥に消えていった。


「いっちゃった」


「俺達はのんびり行こうな」


「のんびり」


翼は川で野草を洗い平たい岩の上で干す事にした。


水が減ってきた収納タンクに水を注ぎ込んだ。


この大きな収納タンクは10倍の水が収納出来る上に、浄化機能まで付いている。


「アニ、アニ」


呼び声を聞いて振り向くと、リーフの姿が見当たらない。


「あっ、リーフっっっ┅┅収納」


翼は荷物の収納を唱えながら駆け出していった。


何故なら、リーフが川に流されていたからだ。


「リーフ、ビョーンして川から飛び出て」


「ビョーン」


リーフは懸命にビョーンと手足のような物を出しているが、川の上に少し浮くのがやっとだった。


幸い川が広くなり、流れが緩くなってリーフに追い付いた。


翼は川の中に入っていきリーフを掴まえると、胸に抱きかかえた。


「ごめんな。恐かったろ」


「こわわった」


「もう大丈夫だからな」


「みずいや」


「もう大丈夫」


翼は己の愚かしさを呪っていた。


リーフはまだ赤ん坊なのに川で野草を洗って、のんきにタンクに水を汲んでた。


無事だったから良かったようなものの、何かあってからでは済まない。


「いたいいたい葉っぱいる」


胸の中のリーフを見ると、翼の落とした涙で濡れていた。


「大丈夫。どこも痛くないよ。ありがとう」


リーフはビョーンと腕を出して、濡れている翼の頬をさすった。


「だいじょぶ」


「うん、大丈夫」


その後、何百メーターか道を戻りアスパラガス、よもぎ、紫蘇の葉を拾ってきた。


◇◆◇


「熊が捕れたぞ」


いや、それ森の荒くれものレッドグリズリーだから。


「じゃあ、レッドグリズリーの皮を剥いで胆嚢も確保しつつ、今日の食材をカットしていこう」


翼は、収納を全オープンさせると、瞬く間にレッドグリズリーの解体をして、貴重な胆嚢をしまい皮を木の枝に干した。


「そうだ。アスパラガスを使わなきゃね」


揚げ物には少なめの油を熱しておく。


アスパラガスの持ち手以外の全体に小麦粉、溶き卵、パン粉の順にまぶしておく。


それを油で焼き揚げにする。


熊の肉は脂が多いから、厚めのステーキ肉を鉄板で一気に焼いて脂を落とす。


熊の肉を薄切りして紫蘇の葉と一緒に巻いて、衣を付けて、焼き揚げにする。


「出来たよ。いっぱいあるからね」


ユキには大きな葉っぱに、熊の巨大ステーキ肉をデ~ンと出した。


脇にアスパラガスのフライ、紫蘇の葉巻き肉のフライもいっぱいのせている。


翼とリーフは普通の皿に同じ食事をこんもりとのせた。


「熊の肉は生だとギトギトするものだが、焼くとジューシーになるんだな」


「ジューシー」


リーフはまたユキを真似て、言葉を覚えたみたいだ。


「さあ、2人ともワインとジュースも飲みな」


翼は自分も食事を食べ始めながら、ユキとリーフの世話をした。


「あ~アスパラガスのフライは、特製のマヨネーズかソースを付けて食べてみて」


翼の作ったマヨネーズとソースを小皿に出した。


「おおおおおっ、ソースとタレを付けなかった時には分からなかったが、このアスパラガスとか言う棒野菜のフライ旨すぎる」


「んまい」


あちゃ~、リーフが旨いとか覚えちゃったよ。男の子だからいいのか┅┅?


あれれ?男だよな?聞くのも恐いし、うん。男の子って事にしておこう。


翼は自分の中で勝手に悩んで、勝手に解決した。


◇◆◇


「わかんない」


うわっ、リーフが何もないところに向かって話してる。


実際には木の上に向かって話してる。


多分あれだな。


ペットが誰もいない壁に向かって吠えていて、幽霊でもいるんじゃないかって思うやつ。


実際には小さな虫に吠えてるらしいけど。


「なんか虫でもいたのか」


翼は後ろからリーフを持ち上げて、木の上を見上げた。


え?


「あらららら、もしかして目が合っちゃってるのかしら」


挿し絵とかにある妖精の姿をしたエルフが、木の上から飛び降りてきた。


しかも小さいんですけど。


「あんたが妖精の使途ね」


神様の使途の次は妖精の使途って、使途の大安売りか。


「違いますけど」


「じゃあ、どうして世界樹の子を連れて旅しているの?」


「世界樹の子ってリーフの事ですか」


「知らないで一緒にいるの?じゃあ、頭の葉っぱも使ってないって言うの?」


「いいえ、使いました」


「あんた使途じゃなくて強欲な商人、いいえ、盗賊ね」


「はあっ」


こんな小さな子を相手にケンカなんてしたくないけど、盗賊だとっ。


「めっ、ちがう」


「リーフ、俺をいじめるなって庇ってくれるのか」


翼はいきなりの濡れ衣にショックを受けていたので、リーフの言葉が嬉しかった。


「ふ~ん、世界樹の子が懐いてるとこ見ると盗賊ではないわね」


「そなた、誰と話しておるのじゃ」


ユキが、巨大なサンダーウルフを咥えてやって来た。


どさっ


ユキはサンダーウルフを近くに放り投げた。


「羽虫ではないか」


ユキはリーフに触れていなくても、羽虫じゃなくて妖精が見えるみたいだ。


「はむしなの」


「うぬぬ。羽虫と呼ぶな。お主はキマイラ???ライオン???ではないか」


「分からないなら無理しなくていいよ。リーフも羽虫って呼ばないであげて」


「はむしじゃないの」


「あたしは、ライトエルフのアルルよ。森や泉、井戸や地下などに住んでいて、自然と豊かさを司っているんだから」


「あるるるるる」


「アルルよ」


「子供相手にムキにならないで」


翼は、ため息を付いた。


また使途だよ。


何なんだ一体。


それより、リーフの方が気になる。


「それで世界樹の子って言うのは、どう言う意味なのかな」


「世界樹の子は、そのまま世界樹から生まれた子供だけど」


イラッ


「世界樹の子について知りたいなら、我が話してやる。世界樹の子は┅┅」


ユキが世界樹の子について、知っている事を教えてくれた。


 世界樹の葉っぱが地面に落ちるだろう。


すると、世界の大地に生命を宿すパワーが備わる。


人間がポーションを飲んで、HPを回復するのと同じだな。


でも、中には大地に溶け込まずに、生き長らえる葉っぱがいる。


それが逆に大地や空中から精気を取り込んで、成長したのがベビーリーフスライムだ。


「えっと、じゃあリーフは世界樹の子供で成長したら、どうなるのかな?」


「世界樹の子が成長したら、世界樹になるんじゃないのか」


「そんな事って┅┅ダメだ。リーフが木になっちゃうなんて」


それって今の可愛いリーフが消えて、物言わぬ意思のない木になるって事じゃないか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る