第7話

   消えたリーフ


 皆でアップルパイを食べていた時の事。


「にゃ~ん」


今まで隠れていたのか、避難していた猫が村に戻ってきた。


「もしかしてアップルパイが、食べたいのか?三匹か」


「な~お」


翼は1ピースを三等分にして、猫の前に置いた。


がっがっ


お腹を空かせていたのか、あっという間に平らげた。


その後も、猫達は食べ物をやったせいか、教会や果物の種を蒔いた畑に居座った。


ネコは大抵、狭い空間や物を見付けては、昼寝をしていた。


畑の脇で、桶の中に入っている猫を横目に見ながら畑の柵について考えていた。


木に実がなる前でも、草食動物もいるし、食べ物がなければ動物は柔らかい葉を食べに来る。


鳥は種を掘り起こして食べる事もある。


「村長さんに相談するか」


◇◆◇


「畑に柵を作ろうと思うんですが、板なんてありますか?」


「おおっ、それでは用意してお持ちしますよ」


「ありがとうございます」


「あとこちらをお持ち頂きたいのですが」


それは倉庫にあった果物や小麦、チーズに野菜、1ヶ月分だった。


「こんなに沢山の食料を頂いては、この村が困るのでは?」


「食料の救援を頼んだので、問題ございません」


「ではお返しに、オークキングの肉をまるごと置いていきます。皮も売れますし、魔石もどうぞ」


「こんな貴重な物を頂いては逆に申し訳ないです」


「獲物はユキがいくらでも狩ってくれるので心配ないです」


「うむ」


「では、また」


翼は村長宅を後にした。


「あっ、ユキだ」


村長宅から少し離れた丘の上に、ユキが日向ぼっこをしている姿が見えた。


「こんなところで日向ぼっこか」


翼はユキの隣に腰を下ろした。


「うむ」


「あれ?リーフは一緒じゃないのか?」


「我はずっと1人で寝ていた」


「俺も畑仕事をしていて、リーフの事すっかり忘れてたよ」


「まさか山には登らぬと思うが」


「まさか」


翼とユキは急いで丘を降りて、辺りを探し始めた。


「リーフっ、出ておいで」


「リーフ、どこじゃ」


リーフを探し回っていた時に、村人の会話が聞こえてきた。


「なんか、教会の裏ですすり泣くような声がしたんだよ」


「教会の裏とか場所が場所だけに、成仏出来てない霊とか?」


「やめてくれよ」


村人を呼び止めた。


「すみません。すすり泣きって、畑の方からですか?」


「教会にお住まいなのに、変な事言ってすみません。でも本当なんです」


「ありがとうございます。行ってみます」


翼は村人にお礼を言うと、ユキと走って畑に向かった。


「え~ん、え~ん」


本当に鳴き声が聞こえる。


でもこの泣き声は。


「リーフ、どこにいるの?」


「アニ、リーフここ」


あっ、さっき猫が転がっている桶の中で眠ってると思ったら、リーフだったのか。


「リーフ何やってるの?出ておいで」


ユキが鼻先で、鍋を少しだけ立てた。


「リーフないない」


「えっ、出れないの?」


「ないない」


「リーフ、いいかい。少しでも痛かったら教えてね」


「いたいいたい」


まだ何もやってないよ。


翼は桶の内側の側面に手を入れて、リーフを掬いだした。


「もう大丈夫だよ」


「こわわった」


「そうか。よく我慢したね。偉いぞ」


ユキも翼の言葉に合わせて、リーフに鼻先でスリスリした。


「どうして桶に入ったのだ?」


「ねこねてたの」


「猫の真似してみたかったんだな」


「とにかく見つかって良かった」


桶の中に入るって、子供って何するか分かったもんじゃないな。


◇◆◇


「使途様、神獣様、柵になりそうな板をお持ちしました」


村長に付いてきた力のありそうな村人が、長細い板を何百本も運んでくれた。


「助かります。早速、柵を作っていきます」


翼は若い村人の力も借りて果樹畑予定地の回りに柵を巡らした。


「それで、そちはどうやって柵の外に出るのだ」


あっ、出入り口を作るのを忘れてしまった。


「ユキ」


翼は両手を広げて、ユキに持ち上げてくれと合図した。


「はああっ」


ユキは大きなため息を付きながらも、頭を下げて翼に掴まれと合図した。


ひょいっと、柵の外に出た翼は、柵の回りを歩き回る。


「なあ、出口がなければ侵入者も入れないし、このままで良くないか?」


「このまま何もせずに、果実が収穫出来るようになるのか」


「いやあ、雑草取ったり、虫取り、虫避け、冷害対策、日照り対策」


「中に入りたい時はどうするのだ?」


「ユキに持ち上げてもらうとか?」


「はああっ、我らは果実が収穫出来るまで何年もここに滞在者するのか」


「┅┅」


そうだった。


ここでの生活が当たり前になっていて、村を出ていった後の事なんて考えてもみなかった。


いや、村を出る事を考えなくなっていた。


村の再建だって順調に進んでいて、正直、俺達はもう必要ないだろう。


「ユキの言う通りだった。柵の出入り口を作るよ」


「ここに定住したいなら、そうすればいい」


「俺は葡萄以外の、桃やみかん以外のこの世界だけの果物を見付けに行きたい」


そして、この世界だけの果物で果実酒を作ってみたい。


もっと大きな農園で、いろんな果実を育てて果実酒を作るんだ。


そこで食料となる動物や魔物を育てて、ベーコンやチーズ、ソフトクリームを作って売るのもいいな。


とにかく俺には夢があるんだ。


「ここは居心地がいいから田舎みたいだ。また遊びに来ような」


「うむ」


◇◆◇


「もう旅立ってしまわれるのですか」


別れの挨拶をする為に村長宅にお邪魔した。


「ここは居心地が良すぎて、旅人は足が重くなってしまうようです」


「それは何よりでした。村の出口までご一緒します」


村の出口に着くと、村人総出で見送りに来てくれていた。


「また来てくれよな」


「果実の木は、しっかりと育てるからな」


「村を救ってくれてありごとう」


村人からは次々に感謝と別れの言葉が投げ掛けられた。


「うむ。キマイラの事はすまなかった。これからも我が種族を頼む」


「勿論です。キマイラは兄弟だと思っています。また友好の使者を出します」


「では、また必ずやって来ますから」


「またね」


翼が教えたように、リーフは2本の腕を頭上に出して、左右に振った。


「またね」


「可愛い」


「リーフちゃんだけでも置いていって」


「にゃ~」


リーフと仲良しの猫達も名残惜しそうにリーフを囲んだ。


「リーフ、どうする?」


「なあに???」


「リーフに村に残って欲しいんだって」


「アニとユキちゃん」


「俺達は世界中を歩いて、まだ見ぬ果物を探すんだ」


「リーフもくだもの」


「すみません。リーフは連れていきます。猫達もごめんな」


「な~ご」


こうして俺達は再建の進んだ村を後にして、また旅に出た。

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