第8話『望まぬ弟子入り』

「お爺様!弟子入り志望者です!ついに、お爺様の秘術を受け継ぐべき人物が現れましたよ‼︎」


 屋敷の奥の古い木造扉を勢いよく開けて、カザミが叫んだ。彼女の後を追ってきた俺は、そっと訂正する。


「いや、別に志望はしてないけど……」


「お爺様が長年研鑽してきた剣の技術を伝授して欲しいって、そう言っていますわ!」


どうもこのカザミという子は、興奮状態になると人の話を聞かないばかりか、人の言っていることを都合良く曲解してしまう悪癖があるらしい。危険だ。俺が訂正しようと開いた口を、横から身を乗り出したライラが手で押さえて、話に乱入する。


「この人は、伝説の剣豪の噂を聞きつけてわざわざ遠い国からやってきたのです」


「やっぱりそうなのね!」


 カザミが嬉しそうに言った。ライラのやつ、余計な事を言って話をややこしくしやがった。俺は口を覆う手を退けて、噛み付くように問う。


「おい!どういうつもりだ⁈なんだってそんなデタラメを……」


「いえ、面白そうなので」


 ニヤニヤと笑う自身の口元を両手で隠しつつ言う彼女に、俺はいつもの問答を仕掛ける。


「あんた感情あるだろ⁈」


「私に感情はありません」


「お爺様!弟子よ!一番弟子!」


 めちゃくちゃであった。


 部屋の奥から出てきた白髪の老人が、射るような目でカザミを睨んで一喝する。


「何を騒いでいる、うるさいぞ。時間の無駄だ、端的に話せ!」


「はい!」


 この人に言われると、誰しも自然と背筋が伸びる。カザミは落ち着きを取り戻すと、簡潔にまとめて説明した。


「このノヴァは、お爺様に弟子入りしたくてわざわざ遠い国からやって来たそうです」


 まとめた内容は全て間違っていた。老人はジロリと俺を睨んだ後、またカザミへ視線を戻して問う。


「私が弟子を取らぬ主義である事は知っているだろう。その上で薦めるという事は、お前の目から見て、この若造に何か光るものがあるとでもいうのか?」


「光るものは何も無いわ!」


 即答だった。隣のライラが笑いを堪えているのが肌で感じ取れた。


「でも、この人、すごく魔力が少ないの!こういう人こそ、むしろお爺様の剣術を受け継ぐべき人材じゃ無いでしょうか!」


 もしかしたら、今俺は物凄く馬鹿にされているのでは無いのだろうか。ライラの笑い声に歯止めが効かなくなっていた。


 老人は見透かすような瞳で俺を見た後、おもむろに魔力量を尋ねた。


「ええっと、8……」


「はちぃ⁈」


 老人は目を丸くして、驚愕の声を上げた。しかし、小さく咳払いをして直ぐにまたクールな調子を取り戻すと、俺に向かい言う。


「なるほど、確かに我が剣術はお前のような者に向いている。しかし、生半可な心持ちで会得できるようなものではない。相応の覚悟はあるのだろうな?」


「あるわ!」


 なぜか真っ先にカザミが答えた。


「会得できなければ死んでも構わない、そういう覚悟です」


ライラも続けて言う。さっきから俺はほとんど何も言っていないのだが、勝手に話が進んでいく。俺は流れを断ち切るべく声を張り上げて本心をぶち撒けた。


「正直、なんも興味ないっていうか……そもそもなんすか、剣術って。俺別に戦いとかしたくないし、そんな技術貰っても……」


 俺の言葉に、老人は深く頷き、言う。


「お前の覚悟。確かに見せてもらった。仮弟子入りを許可しよう!」


「オイ誰も俺の話聞かねぇな⁈」


結局、どうのこうのとは言っているが、この老人も弟子が欲しくて仕方なかったようだ。俺の言葉を聞かないふりをして弟子にしようとしてくる。こうなってはもう仕方がない。


老人は俺の肩にポンと手を置いた。


「私も、生まれつき魔力が少なかった。故に苦労したものだ。だが、我々のような魔力貧者が輝くために生まれたのが、我が流派。名を『セツナ一刀流』」


 ニッと笑って老人は続ける。


「誇り高き最強の魔導剣術だ」

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俺が異世界で無双するにはモフモフくまさんに変身するしかない 繭住懐古 @mayuzumikaiko

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