第5話 別離

ある時母は、私のラインを全て消してしまったと告げてきた。





「なんかわかんないけど、全部消しちゃったんだわ。もう千夏とのやりとり、何も見れない。」


「いいよ、どうせうざいネガティブメールばっかりだし。見えなくなってよかったね。」





母のスマホからは、この状態にいたる前の、日常の平和なやりとりも含む、私との数年間のやりとりが全て消去された。






「ごめん、もう、千夏には付き合いきれない。千夏の考えていることは、お母さんには理解できない。千夏が行きたいならどこへでも行けばいいし、好きなように生きればいい。」



ある日母が私にそう告げてきた。





あ、そう。



「そっか。今まで苦しめてごめんね。」



私はすべての感情を押し殺した。

なにかの糸がぷっつりと切れてしまったのを感じた。




もう、明恵さんには頼らない。

自分の力で生きていく。




結局、私も、昭恵さんも、お互いに依存しあっていたのだ。



―自分がいないと、この子は生きていけないと、全てに口出ししてきた、昭恵さん


―昭恵さんが助けてくれないと生きていけないと思っていたおもわされていた、私



こんなにやってあげたんだから』

娘だから、できたのね』

それは賛成しない』




…こんな関係は、もう終わりにしよう。






昭恵さんが勝手に家を片づけに来ることもなくなった。


私が昭恵さんに相談することもなくなった。


私は、自分で決めたことの結果だけを、昭恵さんに伝えるようになった。






私に好きなように生きろといったはずの昭恵さんはある日、私にこう告げてきた。




千夏ちなつ、私たちの老後のことは全てこのエンディングノートに書いてある。優悟ゆうご達は結婚して家を持っている。転勤もなく、持ち家もないのは千夏だけ。あとは頼んだからね」





遺産なんて興味ない。

そんなものは、いずれ消えてなくなるものだ。


墓なんて興味ない。

自分の骨なんか許可を得た適当な場所に散骨してもらえばいい。




私が本当に欲しかったのは、消えて無くならない一生モノの【形のない財産】のほうだ。



信頼

愛情

幸福

平和



本来、子どもが等しく与えられるべき権利であるはずだ。

もはや取り返しがつかない。



子どもにはなんの罪もない。

生まれた後、どのような環境で育っていくのかで、人は善にも悪にもなり得る。



私は悪ではないが、善でもない。




エンディングノートに何が書いてあるのか、私は知らない。



見ようとも思わない。



—見たところで、果たしてそれに答えてあげられるのかどうかも、私は知らない。









—もう理解できない、好きに生きなさい—








そう言ったよね。




お望み通り、自分勝手に生きてやるよ。



















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共依存Ⅱ タカナシ トーヤ @takanashi108

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