第11話 冒険者ギルドのケガ人


「ケガ人は、医務室にはこべ。聖女様はまだか? あと、回復薬はどれくらい在庫があるのだ?」


「ギルドマスター、もう回復薬は在庫がありません。薬師ギルドの回復薬も、先日納入したばかりですから、期待薄です」


 冒険者ギルドに着くと、ケガ人がたくさんいて大騒ぎの最中だった。

 そんな時に、ツノウサギのツノを一個出して査定をお願いなどできるわけがない。さすがに私でも、それくらいの常識は持っている。


 それよりも私にはやれることがある。


 腕を組んで困っているギルドマスターらしい人に声を掛ける。


「あの私、初級の回復薬なら作れると思いますが」


「それは本当か? 準備するからすぐに作ってくれ」


 私の提案に、周りにいた人が一斉にこっちを向いて、期待感いっぱいの瞳でみつめられた。

 

「わかりました。部屋を用意してください。人は入れてほしくないです」


「了解した。そちらの要望を飲もう。時間が無いのですぐに取り掛かってくれ。ジェーン対応を頼む」


「ギルドマスター了解しました。確かサリー様でしたね。こちらの会議室にどうぞ」


 私とセリーナは、ジェーンさんに案内されて会議室に通された。


「冒険者ギルドは、個人情報を秘密にしてくれますか?」


「なるほど、隠しておきたいことがあるのですね。わかりました冒険者ギルド職員として守りましょう」


 私の唐突な要望だったが、ジェーンさんはきっぱりと言い切った。


 そこで私は、空間収納から、魔法薬作成キットと素材を次々に並べていく。

 ジェーンさんは、私の秘密がわかったのだろう、目を見張っていた。


「ジェーンさん。回復薬のビンはありますか?」


「あるか調べてきます。なければ、薬師ギルドからすぐに運んできます」


 ジェーンさんが出て行った。私はどんどん初級回復薬づくりをすすめる。


「セリーナ、ヒール草をお皿に入れたら、クリーンをかけてくれるかしら」


「了解しました。お嬢様。 『クリーン』」


 回復薬を何本作ろうかな……。100本もあれば十分だろうと考えて、ヒール草は100枚にした。

 セリーナのクリーンで、お皿に乗ったヒール草が一気にピカピカだ。ため息が漏れる。

 

「水は私が作って入れるわ」


 そう言ってから、水を作り出すイメージを集中させる。

 右手からチョロチョロと水が出てくるが、私の水は金色に輝いているのだ。


「ふふふ」


 魔石は討伐した魔石を入れて、ビンを待つだけね。

 

「コンコン。ジェーンです。開けてください」


「ジェーンさん、とても早かったですね。ビンは見つかったんですか?」


「ええ、倉庫に使用済みのビンがありましたので、急いで持ってきました!」


 ジェーンさんが持って来たビンを見てみると、使用後の回復薬の空き瓶だった……。

(リサイクルは大事だよね……)と考えながらも少し不安な気持ちで利用することにする。


「セリーナ。今度はこのビンにクリーンをかけてくれるかしら」


「お任せください、お嬢様。『クリーン』」


 空き瓶がキラキラに輝くほどきれいになってしまった。やっぱりスーパーメイドのセリーナが使う『クリーン』は違うなあ。などと、余計なことを考えたけれど、そんな暇など無いのだ。さっさと回復薬をつくらなくてはいけない。

 

 ビンを装置に100本セットしてからスイッチを入れる。


「スイッチオン!」


「やっぱり、お嬢様は、スイッチオンっていうんですね」


 セリーナの言葉はスルーして装置を見ていると、次々と初級回復薬が出てくる。順調だ。しばらくすると100本の回復薬が並んでいた。わたしは、ふうっと安堵の息をはいた。


 ただ、色は薄緑色で全体に金色のモヤモヤが感じられたけれど、スルーした。


「すごいですね。こんなにたくさんの回復薬が作れるなんて。サリー様ありがとうございます」

 

 そう言って頭を下げるジェーンさん。この人は絶対いい人だ。


「大丈夫ですよ、ジェーンさん。皆さんのためですから。急いで回復薬を運びましょう」


 二人に声を掛けて、箱に入れた回復薬を、冒険者ギルドの救護室に運んで行く。

 

 救護室に行くと、ドアの前からでもうめき声が聞こえてくるほどの惨状だった。


 中に入ると、30人ほどの冒険者だろうと思われる人たちが、包帯を巻いて苦しんでいる。


「初級回復薬が届きました。使ってください」


 ジェーンさんの言葉に、手当てをしている人たちが、運んだ回復薬を持ってケガ人を処置していく。


 効果はすぐに現れた。


「おおお、傷があっという間に治ったぞ。すげえ!」


「折れた骨がくっついたみたいだぞ。初級ではくっつかないと思ったけどな?!」


「こちらの方は重症の深い傷も治りましたよ。あの、これ本当に初級ですよね?」


 そんな言葉に、受付のジェーンさんが反応した。

 

「その初級回復薬はこちらのサリー様が作られた回復薬です。確かに初級でした。私が作るところを見ましたので」


 そんな言葉に、男性のきれいな声が掛けられる。


「それは、サリーさんの初級回復薬の効果がとても高かったという事でしょう。サリーさんは治癒魔法を使える聖女様と同じですよ。皆さんで感謝しましょう」

 

「「聖女様、サリー様、ありがとう」」


 聖女様ありがとうの声が治療室いっぱいに広がった。私は恥ずかしさと嬉しさで下を向いてしまう。


「サリー様 回復薬が出来てよかったですね。これで十分立派な聖女ですよ。学院なんか気にしなくていいです」


 ふと、掛けられた声が聞き覚えのある声だったので、顔を上げると、先日出発した騎士団の男性だった。鎧を脱いでいて気づかなかったのだ。


「ありがとう。うれしいです」


 涙でボツボツとしかしゃべれない私に、男性(ルーク様)はこう言った。


「ようやく自分も任務が終りました。たくさんお話ししたいことあるのですけれど、一度お食事でもいかがですか?」


「たくさん?」


「ええ、井戸の事やら学院の事から、いろいろです」


 ルーク様は小声で言った。


「え!? いろいろ……? わかりました」


 そんなわけで、私は、ルーク様と食事をして「いろいろ」聞くことになった。

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