第9話 冒険者ギルドに挑戦


 午後の一番のお仕事は、大工の親方との打ち合わせだ。自分専用の研究室が作れると思うと、うらら時代の研究室がイメージされて心が躍る。


 食事が終わってお茶を飲んでいると、セリーナが呼びに来た。


「お嬢様、大工の親方が来ました」

「じゃあ、現場の物置に案内してくれる」


 そうセリーナに頼んでから、自分も庭の物置に向かう。外には排水が掘られているし、中はきれいに片付いている。テーブルも備えてあった。うちの使用人優秀! と思わず笑顔がこぼれてしまう。


 親方は、背はそんなに高くないが、がっしりとしていて、真面目な職人っぽい人だった。


「いつも呼んでいただきやして、あがてえです。どんな具合に直せばいいか教えて下せえ」


「ここでは薬を作りたいと考えています。まず、物置だったので窓を作って換気ができるようにして欲しいです。それから、水を使えるように流しを作ってください。それに、薬の材料を置ける棚も取り付けてください」


 そう言って親方と話しながら、マイ研究室への改修プランを進めていく。


 親方の話だと、大人数で一気に作業すれば3日もあればできるとの事だった。回復薬づくりを早く進めたいので、大人数で工事をしてくださいとお願いした。




 研究室ができるまで3日あるので、薬草採取と小型の魔物狩りへ行くことにする。


「セリーナ、薬草採取と小型の魔物狩りに行きたいんだけど大丈夫かな」

「お任せください、お嬢様。お手伝いできます。それに護衛ならば余裕でございます」


 私の専属メイドのセリーナさん、優秀すぎる。ニコニコしながら、許可をもらいにお母様の部屋に向かう。


 お母様は部屋でくつろいでお茶を飲んでいた。


「お母様、薬草採取と小型の魔物狩りに行きたいのですが許可をください。セリーナと一緒です」


 私は意気込んで話した。実験室が出来れば後は材料だけだから。


「まずは、座ってゆっくり説明して。なぜあなたが薬草採取に行かなくてはならないの。魔物狩りも危険だわ。その辺をくわしく教えてちょうだい」


 お母様は、私を見て心配そうな顔でそう言った。なるほど、もっともなご意見である。


「あなたは、すぐに突っ走るから気を付けなければいけないわ。でも相談へ来るようになっただけ以前よりも良いかもしれないけれどね」


 私は、またもや突っ走っていたようだ。伯爵家ならば薬草採取など人に任せて、お金で買えばいいのだろう。


「薬草採取に行くのは、新鮮な薬草で効果の高い回復薬ができると思うからです。魔物は小型の弱い魔物だけにしますから大丈夫です。王都そばの『ユクラシルの森』ですから安全です。」


 真剣な顔で話す私に、お母様は、心配顔がだんだん和らいでいって、許可を出してくれた。


 私は、薬草採取もしたかったけれど、実は魔物にも興味があったし、自分の魔法がどれだけ通じるか試してみたかったのもあった。


 


 すぐにでもユクラシルの森に行きたかったけれど、採集と狩りをするためには準備が必要だとセリーナに言われ、街へ出かける事にする。


「セリーナまずどこに行けばいいかしら」

「冒険者ギルドに行ってみましょう。大体の物なら、そこでそろうと思いますよ」


 さすが、スーパーメイドである。でも、今度は冒険者ギルドという名前を聞いて、何となくこわいおっさんが出てきそうな気がしてちょっと引いてしまう。


「冒険者ギルドって大丈夫かな。こわい人がいっぱい居そうだけど」

「お嬢様大丈夫ですよ。お任せください」


 まあ、いつもの答えであった。がんばって、冒険者ギルドに挑戦だ。


「お嬢様、到着しました」


 セリーナに連れられて、冒険者ギルドにやって来た。薬師ギルドとは違って、なんとなく粗野というか無骨な感じがする。例えば魔物に囲まれても籠城できるような、そんな感じの造りだ。


「こんにちは」

「ジェーンさん、お客さんだぜ。べっぴんのお嬢さんだ」


 頑張って元気よくドアを開けると、ごつい男の人がこっちを見てから、受付のお姉さんに声を掛けた。やっぱり怖い。


「冒険者ギルドにようこそ。どんなご用件ですか?」


 やさしそうな受付のお姉さんが声を掛けてきた。よかった。


「小型の魔物の狩りをしたいのですが、道具や場所を教えてもらいたいのです」


「それならまず冒険者ギルド証を作る事をおすすめします。魔物について詳しい情報は、冒険者ギルド所属でないと教えられません。それに、魔物を討伐すればお金がもらえますし、魔物の部位を買い取る事も出来ますよ」


「そうなんですね。では冒険者ギルド証を作ります」

「ありがとうございます。必要事項をこの紙に書いてから、この箱の中に人差し指をいれてください」


 そう言って出された紙に、名前だけ書いて渡したけれど、ジェーンさんは何も言わないで受け取った。そのあと、魔道具らしい装置に指を入れた。チクっとした痛みがあって、私の血が冒険者ギルド証に登録された。ギルド証には名前と鉄級冒険者と書いてあった。


「ギルド証っていつも持っていたほうがいいですか」

「お金の出し入れも出来ますし、討伐した魔物を自動で記録してくれますし、身分証にも使えるので持っているのがおすすめです」


 そんな話のやりとりから、護衛のスーパーメイドのセリーナも冒険者ギルド証を作って、代金の銀貨2枚2万マルクを払った。


 その後、冒険者ギルドの雑貨屋で解体ナイフと薬草採取用のひもやスコップも買った。


 次に、ギルドの資料室に案内された私たちは、魔物の資料を読ませてもらう事が出来た。そこで、ユクライル王国が魔物から受けている被害の甚大さに驚いた。


 初級回復薬を作れば、たくさんの人々を助ける事ができると実感できた。

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