第4話 思いがけぬ展開

 正人が愛の魔法をかけてから、数日が経った。

 何か変わったことが起こるのではないかと、最初こそ気になっていたものの。いつもと同じ日が2日過ぎると、もう効果が出ないものと諦めた。あんなくだらないことをしたなんて、自分でも忘れていたと言ってもいい。


 そんな、ある日のこと。


 授業も終わり、中庭を歩いていると、マリアンナが学生たちの集団と話しているのを見かけた。

 彼らの先頭には、ネット上でモデル活動をしている有名な男子学生もいて、彼がマリアンナに告白しているところだった。周囲に集まっているのはその友達や野次馬で、スマートフォンのカメラで録画したりしている。


 しかし、マリアンナは彼らに対して、「お気持ちは嬉しいのですが、あなたとお付き合いすることはできません」とキッパリ断っていた。丁重に頭を下げたが、そこにはガンとした拒絶の色が感じられた。

 正人が本棚の前で見た、柔らかい笑顔は影をひそめ、愛想笑いにとって代わられている。あの時あの場所にいなければ、そのぎこちなさに彼も気づけなかったことだろう。

「信じられない」「私ならすぐOKするのに」といった声が聞こえてきた。

 正人は関わり合いにならないようにそっと通り過ぎようとしたが、ふいにマリアンナと目が合った。


 その刹那、思いがけないことが起こった。


 たちまち、マリアンナの頬が真っ赤に染まったのだ。彼女はそのグループから急いで離れ、正人の後を追ってきた。


「あ、あの……」

「え?」


 おどろいて立ち止まった。正人の驚愕をよそに、少女は明るい笑顔で自己紹介する。


「私、マリアンナ・キャヴェンデールといいます。いきなりゴメンナサイっ。あなたのことをもっと知りたくて……。友達になってくれませんか?」


 頬を赤く染めたまま、そう話し始めると、こちらの個人情報を知ろうと熱心に尋ねてきた。何が起こっているか分からぬまま、しどろもどろに答えた。


 当然ながら、さっき告白していた男子学生は口をあんぐりと開け、せっかくの二枚目を台無しにしていた。周りにいた生徒たちも、この光景に唖然とした。

 驚きと憶測の中で、緑の園はざわめいた。マリアンナは、周りがどんなに騒がしくなってもお構いなしに、元気に話し続けた。


「大天正人さん…ですか。素敵なお名前ですね!

失礼ですが、クラスは何組ですか?……なるほど、道理であまりお見かけしないはずですね。 ええと、クラブ活動などは?……わたしですか? わたしは生徒会に所属しているのですが、暇な時には――…」


 正人は会話を進めながら、何が起こっているのかを理解しようともがき、ほどなく一つの思いが頭をよぎった。


『もしかして、これは魔法のせい? それともただの偶然?』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る