C2-11 笑中刀あり

「死なせ・・・・・・ない・・・・・・」


自分の傷も完治しないまま、フレナがラハムの回復を試みる。


「く、これが最後だ。燐光カルサイト!」


メリアは自身の魔力の残り全てをフレナに注ぎ込む。そして訪れる魔力切れ。つまり、彼女はもう何の魔法も使用できない。悲嘆に暮れながら、ただ敵と仲間を交互に見るだけ。


「くそ、また回復しやがって・・・・・・・いつになったらこいつらは倒せるんだ」


女王は怒っては喜んでを繰り返したあと、疲れ果てたのか、憂鬱そうな表情を浮かべる。


「テレロロロッロロロ・・・・・・デーン!」


そして、ジョーカーのマークがクローバーになる、同時にメリアの背中へ向かい、ジョーカーの斬撃が繰り出される。先ほど深くはないが、浅い傷ではない。


「がっ!?」


「メリア!?」


フレナはメリアの方を見る。だが、メリアは彼女をその場で静止させるよう、手のひらを突き出す。


「私はいい・・・・・・もう奴を倒すしかないんだ。ラハムを治して」


「!! ・・・・・・分かった」


傷口から流れ続ける血は、確実にメリアの命を蝕んでいく。苦境を見て、心臓の鼓動が止まない進。だが、彼の頭は一つの疑問を投げかけてくる。


ーーなんで、攻撃全ての威力にムラがあるんだ?


遠くから観察していた進は、おそらくスペードが攻撃、ハートが回復、クローバーがサポートをに対応するのだと仮定した。


対象者のアクションと、対応するマークが一致するとき、攻撃が開始されるのだと想像する。だが、それなら、なぜ威力に差異があるのか?


「あれの攻撃条件は、特定の行動みたいな固定されたものなのか? もっと曖昧な何かじゃ・・・・・・」


進は女王を見つめる。だが、やはり女王がジョーカーをコントロールしているようには見えない。疲れ果てたのか、首を斜めに構えるだけ。とはいえ、今日はジョーカーがまともに働いているぞと、安心している表情も確認できる。


「あの敵も振り回されてるだけじゃないか。何も情報が得られやしな・・・・・・!?」


再びジョーカーのマークが動き出す。今度はダイヤだ。ラハムへの治療が一段落ついていて、安楽を感じているフレナの背を狙う。だが、先ほどの攻撃よりも威力は遥かに低く、果物ナイフで切られる程度のものもの。


「・・・・・・まさか!?」


全体を見渡し続け、記憶を反芻する進は気付く。ジョーカーの攻撃が始まるトリガーの仕組みに。


「知らせないと!」


崖の上から急いで声を上げる進。深呼吸し、腹の底から大きな音を出す。


「を・・・・・・見ろ!・・・・・・じょ・・・・・・だ!」


「なに? 何を見ろって?」


遠方のため、皆に声ははっきりとは聞こえない。進は銃をその場に下ろし、崖を下り落りる。できる限りレジスタンスたちに近づくだめだ。だが、それはあまりにも無防備な姿。加えて、動きも単純すぎた。


「五月蝿いネズミだね!!」


女王は背中に隠してあったクロスボウ取り出す。そして、12の防壁の範囲を調整し、空いた箇所から進に向かって、弓を発射する。


「ぐああぁっ!?」


弓は見事に進に命中し、進は脇腹を突き刺され、崖から転がり落ちる。女王は普段から人や動物を相手に練習を行なっており、腕はいいようだ。だが幸い、装着していた鎖帷子くさりかたびらのおかげで進の傷はさほど深くない。


「ぐ・・・・・いってぇ・・・・・・」


「なんだい、こんなので大怪我するレベルか。本当に下等だね」


強い魔力をもっていれば、傷つくかどうかすら怪しいのが通常の武器。それで大きなダメージを受ける進を、女王は底辺だと見下す。腹から血が滴り溢れるものの、どうにか動けそうだ。ズキリズキリと響く痛みさえ我慢すれば。


「この! よくも! 燃やしてやる!」


12へ向かって、火炎を浴びせ続けるフォラン。確実に耐久度は減少しているが、まだ防御を破るには至らない。


「進の回復を・・・・・・」


フレナは進に駆け寄ろうとするが、メリアは声をあげて引き留める。


「待って!・・・・・・あれは致命傷じゃない。魔力はセーブしないと」


「でも!」


「進を治しても敵は倒せない・・・・・・あんたが判断を誤れば全員死ぬんだよ」


「・・・・・・」


フレナは暫く考えたあと、その場でラハムの治療に専念することに決める。背に腹は変えられない。幼い彼女もまた、過酷な決断をしなければならなかった。


「ずっとずっと鬱陶しいんだよ! クソガキどもが!!」


「テレレロロロロー・・・・・デン!」


今度のマークはスペードだ。ジョーカーは瞬間移動し、フォランの胸部を切り裂く。


「がああああ!?」


「ははあ! いいぞいいぞ!」


切られた勢いで吹っとぶフォラン。彼女は仰向けで地面に倒れ込む。目に映る空は綺麗に青く青く、澄み渡っている。地上の惨劇とは裏腹に。


「フォラン・・・・・・」


フレナは一命を取り留めたラハムの治療を中断し、フォランの元へと向かう。自身の傷が完全に防ぎ切らない中、残った魔力を全て振り絞り、フォランを回復させる。そんな窮地の中、フォランは高速で思考を巡らせていた。


ーー私の見た限り、スペードは攻撃に対して反撃する? ハートは回復? クローバーは魔力譲渡のサポート? ダイヤは・・・・なんだ?


ーー進はなんて言ってた? 見ろ? ・・・・・・何を?


ーー私はあのジョーカーと仲間を交互に見ていたはず。この状況で他の何を見ろって? あの女のこと?


ーー見てどうなるってのよ。あんな感情剥き出しで馬鹿丸出しの・・・・・・!!!?


「あはははははは!!」


仰向けで空を見上げるフォランが、突如笑い声をあげる。それは勝利の宣言だった。

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