C2-9 空白の席



「あ・・・・・・やっちまった」


屍となったブリタを見て、女王は呆然としていた。だがそれは、慈しみなど人の心を感じられない表情だった。貴重な道具を間違えて壊してしまった、その程度の感傷だ。


「これも全部お前らのせいだ・・・・・・お前らさえこなければ」


身勝手な怒りをレジスタンスたちにぶつける女王。皆が呆れ、冷ややかな目で女王を見ていた。


「もう煽る価値すらないわね。早く殺して燃えるゴミに出してあげるわ」


「最期の言葉くらいは聞いてやる。覚える気はないが」


フォランとラハムの冷淡な言葉とともに、レジスタンスたちがジリジリと女王に歩み寄る。女王をあの世に送るために。


「はあ・・・・・・出すしかないか」


女王が前方に手をかざす。瞬間、全員が身構える。まだ何かがあるのか? と


「空白のエースジョーカー


「!?」


禍々しいオーラとともに召喚されたのは、白化粧のピエロの面を構え、白と黒の縞模様を着るトランプのジョーカーだ。額にはハートのマークが描かれ、胸にはAの白い文字を刻んでいる。持っている巨大な鎌も、横から見るとアルファベットのAに見える。


「なんだあれ? まさか、兵士の番号が2から始まったのは、あいつが1《エース》だからか?」


進の謎は解けたが、決して喜ばしいものではない。終わったはずの戦いが再度、幕を開けたのだから。だが、番号的に考えて、これが本当に最後の札なのだろう。


「しつこいわね! M1《メルティ・ファースト》!」


召喚されるや否や、ジョーカーに向かって炎を放つフォラン。炎はジョーカーの全身を激しく包み込む。だが・・・・・・


「!? ダメージがない?」


どれだけ炎を浴びようと、ジョーカーは全くの無傷。焦げ跡すら見当たらない。フォランは今までに見たことがない状況に、戦慄する。


長弓フォルカーク!」


ラハムは弓で追撃をする。だが、矢は直撃しても、キン、キンと小さなメダルでも当たったかのように弾かれるだけ。魔晶化は一応起きているようだが、相変わらずジョーカーには傷一つつかない。


「なんなんだ一体?」


「まずいね・・・・・・さっきのより強いなら、もう逃げるしかない」


「でも、ほとんど魔力を感じないわよ? ただの囮役とか?」


「ウィリキキヒヒヒヒィ!!」


「!?」


突然ジョーカーが叫び声をあげる。それは声というよりも、まるで老朽化して油が切れた扉が開閉する音のようだ。


「な、なんなの!?」


「テレロロロロロロロロ!」


謎の声とともに、ジョーカーの額のマークが回り出す。マークはクローバー、ダイヤ、ハート、スペードの順番で、目まぐるしく回転する。


「デン!!」


掛け声とともに、額のマークは停止する。それはクローバーのマークだ。


「・・・・・・」


レジスタンスたちが身構える。だが、ジョーカーは何もせず、ぼーっとしていた。


「意味が分からない・・・・・・」


崖の上にいる進は呟く。彼だけでなく、皆が困惑している。それは術者本人の女王ですら同じようだ。


「本当に、こいつは・・・・・・ふざけんじゃないよ!」


ジョーカーは一年前に目覚めた魔法だ。女王は何度も実験を兼ねて召喚したが、どうすれば動くのか、未だにその能力を把握できていない。まるで、壊れた機械を見るかのように、女王は苛ついた表情を見せる。その様子を、レジスタンスたちは見逃さない。


「表情から察するに、どうやら魔法を制御できてないようだね」


「壊せないみたいだけど、襲ってこないのなら本体を狙うだけよ! とっとと消えろ!」


「分かった、終わらせるぞ!」


フレナは業火を、ラハムは両刃剣ハンニバルの剣撃を、左右に分かれて女王に浴びせる。彼女は12《クイーン》の防護壁で攻撃を防ぐが、このままでは、五分も経たずに12は崩される。


「なにやってんだいジョーカー! 早くこいつらを始末しろ!」


「テレロロロロロロ・・・・・・デン!」


再び回りだすジョーカーの額のマーク。それは今度はスペードのマークになる。そして


ーーズバアァァン


「がぁっ!?」


刹那、ジョーカーはフォランの正面に瞬間移動する。そして、大きな鎌で彼女の胸部を深く、広く切り裂いた。

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