第32話 暗闇の中のコンサート

涼子は「虚無堂」での次なるイベントとして「暗闇の中のコンサート」を企画した。このイベントは、参加者が暗闇の中でライブ音楽を聴く体験を通じて、音の純粋な美しさと感情の深さを感じ取ることを目的としていた。


イベントの準備として、涼子は虚無堂の大ホールを使用し、全ての窓を厚手のカーテンで覆い尽くし、部屋を完全な暗闇にした。舞台には様々な楽器が設置され、演奏者たちは事前に暗闇の中で演奏できるようにリハーサルを重ねていた。


参加者たちは一人ずつ静かにホールに案内され、ガイドの声に従って各自の席に着いた。涼子は参加者に深呼吸をしてリラックスするよう促し、すぐにコンサートが始まることを告げた。


暗闇の中、最初に響き渡ったのはピアノの優しい旋律だった。次第にバイオリン、チェロ、フルートが加わり、繊細で感動的な音楽がホールいっぱいに広がった。視覚のない環境で、参加者たちは音楽の一音一音をより深く、感覚的に捉え、演奏から伝わる感情に直接触れることができた。


演奏が進むにつれ、演奏者たちは暗闇の中での演奏がもたらす独特の集中力と情緒を享受し、それがそのまま音楽に反映された。涼子はこのコンサートが、ただの演奏会以上のものになっていることを感じ、参加者たちが音楽によって心を開き、共感し合っている様子に心を打たれた。


コンサートの終了時、涼子はゆっくりとホールの灯りを点け、参加者たちが現実に戻るよう促した。その後、参加者たちは自分たちが体験した音楽の感想を共有し、多くの人が「暗闇の中で聴く音楽は、全く新しい感覚であり、音に対する感度が増した」と感想を述べた。また、音楽の純粋な感動を共有することができたことに感謝する声も多く聞かれた。


涼子はこの「暗闇の中のコンサート」が参加者に与えた影響に満足し、音楽が人々の感情にどれだけ深く影響を与えるかを改めて実感した。そして、虚無堂で提供する独特の体験が参加者の心に残り続けることを願いながら、次のイベントの準備に取り掛かった。

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