第31話 暗闇の中の手紙

涼子は、「虚無堂」で新しいイベント「暗闇の中の手紙」を企画した。このイベントは、参加者が暗闇の中で未来の自分や大切な人への手紙を書く体験を通じて、感情の深層に触れる機会を提供することを目的としていた。


イベントの準備として、涼子は虚無堂の会議室を使用し、部屋全体を完全に暗くするために厚手のカーテンで窓をしっかりと覆った。部屋の中には、それぞれの参加者用に小さなランプと筆記用具、香りつきの紙が用意された。ランプはほのかに光るだけで、主に暗闇の雰囲気を保つために配置された。


参加者たちは一人ずつ部屋に入り、各自が指定された席についた。涼子は参加者たちに、このイベントが自己発見と深い感情表現の場であることを説明し、手紙の書き方について簡単な指示を与えた。参加者は未来の自分に向けて、または過去に自分を支えてくれた大切な人への感謝の気持ちを込めた手紙を書き始めた。


暗闇の中、部屋は静寂に包まれ、時折ペンが紙を擦る音だけが聞こえた。参加者たちは自分の内面に深く潜り、心の奥底に秘めた感謝や願い、そして未来への希望を手紙に綴った。このプロセスは、多くの人にとって自己との対話を深める重要な瞬間となり、感情の洗浄ともいえる体験を提供した。


手紙を書き終えた後、涼子はゆっくりと部屋の明かりを点け、参加者たちを現実に戻した。彼女はそれぞれが手紙を封筒に入れ、未来のある日に開封するように促した。その後、参加者たちは自分の手紙に込めた思いや感じた感情について共有する時間を持ち、多くの人が手紙を通じて新たな自己理解を得たと感じた。


このイベント「暗闇の中の手紙」は、参加者にとって未来への一歩を踏み出すための準備となり、深い自己洞察を促す貴重な機会となった。涼子は参加者たちが自分自身に正直になり、感情を素直に表現することの大切さを再認識し、虚無堂でのさらなるイベント企画に新たなインスピレーションを得た。

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