十四言目 柚木原さんとホテル

「やー、やっぱでっかいお風呂って最高ー!あとサウナー!」

「結構入っちゃったね。一葉ちゃん待たせてないかな……」

「大丈夫だよ、どうせあいつ勝手に帰ってるし」

「わー恐ろしいほど適当」


 「まあ流石にアイスでも買ってくかぁ」と柚木原さんはエレベーターホール横のアイスの自販機でホワイトサイダー味のパピコとあずきバーをポチポチする。「一葉これ好きだからなー」なんて言いながら買い物するその様子は、こう言っては少しアレだけど「あ、ちゃんとお姉ちゃんはしてるんだな」という感じがした。「咲楽は何にする?」と尋ねられて私は200円を出しながら「チョコモナカジャンボで」と答えた。


「やらかしたオベロン、ドベロン」

「うーん、70点くらい」

「そんなもんかぁ。それでスペちゃんとトリ子の声優が同じって話なんだけど」

「ヤバい話題の変え方おかしい割に気になる話だ」

「そうでしょそうでしょ」


 「知りたいならば教えてやろう」という大賢者的スタンスを柚木原さんがとったところで到着してしまった部屋の前。柚木原さんがピンポーンとインターホンを押しながら言うと、「やっと帰ってきた……」と一葉ちゃんの声が中から聞こえた。


「お帰り。お姉ちゃん、氷室さん。随分長かったじゃん」

「え、そんなに?あとこれおみやげ」

「わーいパピコじゃん!それで、二人共かれこれ2時間くらい入ってたよ」

「え、嘘。一葉嘘ついてるよね咲楽?」

「……あ、ほんとだ。8時半から入って今11時前だよ」

「えーマジで?時間覚えなすぎじゃん。春眠かよ」


 布団に転がり込み仰向けになった柚木原さんは「あずきバーうますぎ」ととても褒められた感じじゃない食べ方でアイスを頬張り始める。私はゴミ箱を抱えて飛び散るモナカを受け止めながらチョコモナカジャンボにかじりついた。おいしい。


「っていうかくっそ眠くないや。11時前なのに」

「結構分かる。風呂上がりだからかな?」

「えーすご、私一日歩き回ったから割とお疲れモードなんだけど。高校生ってタフだねー」

「なにっ」

「駄目だよ柚木原さん」


 「とまあ冗談はさておき」と柚木原さんは鞄をガサガサと漁る。ちなみにテント留める用のペグとか水風船のあまりとか調子の悪い時のドラえもんレベルで柚木原さんの鞄からは何でも出てくる。


「んー……あ、あった。せっかくだしマリパやろうよマリパ」

「マリパ?良いよ、眠くなるまでね」

「ん……氷室さんもやるなら……」


 僅かに眠たげな一葉ちゃんも交えて、私達はマリパに勤しみ始めた。


◇◇◇


「どうします?部屋のドアは開いてますけど」

「そうだね、あと30分で朝食だ。ここは起こしてあげた方が良さそうだ」


 遥斗と共に姉らが寝ている部屋を訪れた椿樹はコンコンコンと他の部屋の邪魔にならない程度の音で扉をノックする。反応が返ってこないのをもう一度確認し、彼は意を決して扉を開いた。


「……んむぅ……」

「……うみゃぁ……」

「……ん……」


 そこにはスイッチを囲んで、ぐちゃぐちゃになった布団に雑魚寝する少女3人の姿。途中で野球拳でも始まったのか、姉ら二人は上半身裸で下も下着のみ。無駄にスタイルは良い分たちが悪い。そしてそんなあられもない姿に椿樹は顔を覆い、遥斗は何か良くないものを思い出したかのような顔をする。


「……出直しましょうか」

「……そうだね」


 二人は静かに部屋を出て、すっと扉を締めた。

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