第8話 呼び捨て仲間

 ナレスに首を絞められ意識を失ってから6時間後、クレアは病院のベッドで目を覚ました。


 首に残る鎖の跡を指でなぞろうとした時、点滴のチューブが引っ張られスタンドがカタンと音を鳴らす。


 左に見える萎んだ点滴パックと、時計の針から長時間眠っていたことを理解する。


 担当医と話をしていたギルダンが、スタンドの音を聞きカーテンから顔を覗かせる。



「ご気分はいかがですか?」

「……のどが、痛いです」



 首を絞められたことで喉が傷つけられ、痛みと共に声が掠れている。


 身体を起こし首に触れていると、鎖が首に巻き付き意識が薄れ始めた瞬間観た走馬灯を思い出す。


 18年間生きてきて、楽しい記憶は沢山持っているクレアだが、死の淵で見た走馬灯は日常の記憶ではなく、異能力で観た両親の記憶の映像であった。


 クレアが走馬灯について俯きながら考えていると、ギルダンに名前を呼ばれる。


 ギルダンの声に反応したクレアは頭を上げ声の方を向くと、頭を下げているギルダンの姿が瞳に映る。



「すみませんでした」

「どうして頭を下げているんですか?」

「あなたを危険な目に合わせてしまった。本当に申し訳ございません」



 どうやら、クレアを危険にさらしてしまったことに頭を下げているらしい。


 確かにギルダンが近くにいれば、意識を失うこと自体なかったと思うクレアだが、それと同時にそんな考えはお門違いだとも思っていた。


 自身の問題に他人を巻き込むのは、クレアにとって避けたいことだった。


 クレアは素直に感謝を言葉にして伝える。


 

「助けていただきありがとうございました」

「嬉しいお言葉ありがとうございます。あなたを守ることが私の使命ですから」

「えっ?」

「お伝えしていませんでしたか? 私はサンタナさんにクレアさんの守り人に任命されたんです」



 昨日、両親の過去を観た後、激しい頭痛で話を中断したためギルダンは守り人であることを伝えそびれていた。


 ギルダンは、サンタナに指名されクレアの守り人となったのだ。


 勿論クレアの承諾もなく。

 


「本日はお疲れでしょうから詳しい話は明日、改めてお話しさせていただきます」

「……わかったわ」

「念のため、ガードマンを病室前に立たせておきます」



 ギルダンはクレアが今日の一件で恐怖心が芽生えてると考え、配慮としてガードマンを病室前に配置する。


 クレアもギルダンの配慮に気付いたが、あえて触れずに感謝を伝える。


 会話が一通り終わり、ギルダンは椅子に掛けていた上着を拾い上げて立ち上がる。

 


「それではクレアさん、私はこれで……」



 退出の挨拶を述べようとした時。クレアがギルダンの袖を掴む。

 


「……クレア」

「……どうなされましたか?」

「私のことは、クレアって呼んで」

「しかし、そうは言っても」

「あなたが私を助けるとき、”さん”まで付けたら長いでしょ?だからこれからはタメ口でいいわ」

「それは一理ありますが……」

「クレアって呼ばないと、話聞いてあげないわよ?」

「……分かりま、わかった」



 クレアは無茶苦茶な提案を卑怯な手口で了承させる。


 無理やりな提案に観念して承諾したギルダンは、クレアのやり口にギルダンは口角を少し上げる。



「出会って間もない人間に対しても距離を詰める感じは、サンタナさん譲りですね」



 クレアの顏に残るサンタナの面影をみたギルダンは、感慨深くなっていた。



「ブロンドと赤色のグラデーションヘアーにきれいな緋眼、あなたは間違いなくサンタナさんの娘です」



 養護施設の頃、クレアにとって周りと異なる髪色と瞳は孤立の原因であった。


 しかし、ギルダンの言葉によって、髪色と瞳はクレアがサンタナの娘であることの証明であり、サンタナからの愛であることをクレアに認識させた。



「ギルダン、私もっとお母さんのことを知りたい」

「わかりました、クレアさ……、わかった、クレア」



 ぎこちないギルダンの呼び捨てに、思わず笑みがこぼれる。

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