第7話 ギルダンVSナレス

 瓦礫を払いのけ、ジャラジャラと音を立てながら立ち上がる。


 アーティファクターに加わって5年、実に4年ぶりの怪我を負ったナレスは、折れた歯を床に吐き捨てる。


 反撃に備え視野の片隅にナレスを捉えていたギルダンは、上着をクレアに掛ける。


 ギルダンが着用している軍服は、燃えない限り破れない軍事用繊維を使用した最強の防具であり、衝撃吸収性能も兼ね備えている最新鋭の衣類である。


 ギルダンはクレアの首元に指を添え、脈が弱まっていることを確認する。



「良いパンチをもらっちゃったわね」

「よく言うぜ、咄嗟に鎖を地面に刺して勢いを殺したくせに」



 コテージの外から仕掛けたギルダンの不意打ちの攻撃を、ナレスは気付いたのだ。

 


「どうしてここにクレアがいるとわかったの?」

「彼女に予め渡しておいた名刺に細工をしていてな。名刺が破れると、破れた時点での場所が感知可能になる」

「見た目の割りに手先が器用なのね」

「これでも不器用な方なんだがな。器用と言えば、お前の鎖捌きも器用さが必要だろ」

「あら、レディーの扱いになれているのね、嬉しいわ」



 お互い会話をしながら隙を探りあっている。


 簡単に一蹴できるような敵ではないことを悟り、動けないでいる二人。


 傷を負ったナレス、クレアを守りながら戦いに挑むギルダン――客観的にみればギルダンの方が劣勢である。


 しかし、ナレスも手の内が割れていないギルダンに警戒している。


 睨み合いが続く時間なんと1分。


 ギルダンが開けた壁穴から、湿度の高く重たい空気が両者の身体に纏わりつき、身体に力が入る。

 

 先に痺れを切らしたのはナレスだった。


 鎖を4本取り出したナレスは3本をギルダンに向け、1本は大きく回り込ませクレアに伸ばす。


 ギルダンも、ナレスが鎖を出した瞬間、銃ホルダーから素早くハンドガンを取り出し、向ってくる鎖をぴったり3発で仕留める。


 さらに、クレアを襲う1本の鎖もノールックで撃ち落とす。


 ギルダンの早打ちとその正確性に驚きを隠せなかったナレスは声を漏らす。

 


「こんな化け物がいたなんて……」

「おいおい、これで驚くなよ。お前を買いかぶりすぎたか?」

「ちっ、調子に乗るなぁ!」



 安い挑発に乗ってしまったナレスは扱える最大本数6本の鎖を取りだし、今度は緩急をつけ鎖を伸ばす。


 ナレスの攻撃の単調性に拍子抜けたギルダンは、5本の鎖を正確に撃ち落とし、直線状に伸びる最後の1本を握力で断ち切る。


 すべての攻撃を対応し切ったギルダンは、呆気にとられたナレスの懐に入り込み会心の一撃を放とうとした瞬間、突如真横から手榴弾が飛んできていることに気付く。


 軍人であれば、手榴弾の対処方法の1つや2つは知っている。


だが、既に攻撃モーションに入ってしまっていては、対処することができない。



『これで私の1人負けではなく、相打ちに持ち込める』



 敗北から相打ちに変わり失敗を帳消しにできる状況に安心したナレスだが、ギルダンは諦めていなかった。


 ギルダンは、腕を伸び切る直前に拳の軌道を変え、手榴弾を上方向に殴り飛ばす。

 急上昇する手榴弾は天井にぶつかり、その衝撃で爆発する。


 爆発による煙と抜けた天井落下で発生した砂ぼこりにコテージは包みこまれる。


 ギルダンは手榴弾を突き上げた後、攻撃モーションの勢いを利用して身体を反転し、寝転ぶクレアの頭を抑えながらコテージの外に飛ばされる。



「くそっ、無茶な攻撃しやがる」

 


 手榴弾が飛んできた方向には、転送穴とさらにその奥に転送の使い手がいることをギルダンは一瞬で把握していた。


 敵の増援が到着していたことを考えると、早々に引いた敵の判断に助かったと言える。



「クレア、今すぐ病院に連れていくから、絶対死ぬなよ」



 ギルダンはクレアを抱きかかえ、山の中腹で待機させていたヘリに乗り込み病院へ向かう。

 

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