HTMLの場合

 引用した[1]の説明は HTMLについての物ですので、一般のMarkup言語全てがそうというわけではないのですが、少なくともHTMLにおいてはタグという記法を通じて文字列が何を意味するかを表しています。


 例えば、 1行の文章(厳密には1つの段落)を表すpタグは


================


<p>ところで、婆さん。

夕飯はまだかいの?</p>

<p>ちょっと、あなた誰ですか!</p>

================


 と書かれます。仮にHTMLファイルにこれを直接書くと、当然ながらHTMLの要素として解釈され<p>は表示されないのですが、カクヨムをはじめとした良識のあるサイトは山括弧の中身をそのまま表示させるしかけを施してあります。


 このようなHTML形式で書かれた文章を受け取ったWEBブラウザは<p>....</p> で囲まれた部分を 1つの塊と認識し、例えば塊の終わりで改行をしたり、塊の間を一行開けたりといったことをパソコンの画面上で行うわけです(どのタグにはどのような処理をしてほしいかという追加の注文は CSS(Style)という形式でブラウザに発注するのですが、今回の話にはあまり関係ないので省略します)。


 もう少し複雑なタグならば、例えばrubyタグがあります。これはカクヨムでも別の形で実行可能なルビ振りを行うためのタグで、


================


<ruby>服毒主義者<rt>コアラ</rt></ruby>

================


 の様に書くと服毒主義者コアラと表示されます。実の所、これは「マズい」書き方なのですが、解りやすさのためにこう書いておきます。


 上の例では、服毒主義者の部分が本来の文字列で、コアラの部分がその上に補足として乗る文字列であることをブラウザに教えているわけです。


 上の2つの例で見たように、人間が考えた文章のなかの要素(つまり単語や更に短い文章)がどのように繋がって意味をなしているのかを、 HTMLではタグを用いることで文章内に「追加で明示的に」表現している訳です。


 さて、ここまで読んでみると、なぜMarkupを布教しようとしたのかについて察することができるかもしれません。


 すなわち、「文章が論理的にどのような構成を持つのかを明示的に示すことで、破綻した文章を書くリスクを軽減できる可能性がある」ということです。


(註:識者向け:この説明は意味マークアップの説明に近いですが、手続き型や視覚的な推論の話は初学者が混乱する可能性があるため省きました。忘れていなければ閑話で少し触れます)


 また、構造が目に見える形で存在しているために、推敲などで見直す際にも細かい部分(例えば誤字脱字や採用しなかった表現の消し忘れ、そして誤字脱字など:これは消し忘れではない)に目が届きやすくなる副次効果もあります。


 構造を明示的に示すという特徴は HTMLに限らず、全てのMarkup言語が備えているので、 Markup言語自体が破綻のない文章の執筆と相性が良いことが解るでしょう。


 とはいえ、実際の執筆活動に HTMLを直接使うことはあまり賢いとは言えません(少なくともベルの音で涎が出るようになった犬よりは賢いかもしれませんが)。


 何故かというと、改行にはいちいち改行のタグ、文章の間に隙間を開けたいなら、その分明示的にタグ(<br>)を、おまけにレイアウトを指定してやらないと表示されるのはのっぺりとした文字列(この問題については表示する方法次第ですが)。こんな有り様で執筆に集中できるでしょうか。少なくとも、筆者は HTML直打ちで小説を書けと言われたら逃げ出すかもしれません(もしくは相手の財布が少し軽くなるでしょう)。


 しかし、悲観する必要はあまりありません。もう少し直感的に記述できる Markup言語がいくつか存在するためです。あまりと言ったのは、それぞれの言語の文法を覚えなければならない点は避けられないためです(実はこの点を避ける方法が1つあり、それは自分でMarkup言語の文法を一から考えることです。新しいことを覚えるのが嫌な方はお試しあれ)。


 次のページ以降では特におすすめする言語として、 LaTeXとMarkdownを紹介します。もちろん、使用した通信や電気の代金を除いて無料で使うことができます。

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