第3話


「……えっ」


 僕はもう一度、“僕”の体に手を伸ばす。肩に触れようとする。もちろん触れない。頭を撫でようとする。もちろん撫でられない。


 加えて、“僕”の体が少し半透明のように見えてきた。


「えぇぇぇ! 透けてるんですけどぉぉ!?」

「ふっ、驚いたか、桜斗。これが僕の力だ」

「いや、意味わかんないから。それに僕の名前を、僕の顔と声で呼ぶのやめてくれない?」

「じゃあ、なんと呼べばいいのさ、桜斗」

「だからやめてってば」


 話の通じないやつだ。僕はため息をつく。そして諦めてスマホを取り出す。


「検索かけてやる」

「なんて?」

「目の前にウザったいドッペルゲンガーが居ます。どう対処すればいいですか」

「絶対何も出てこないと予想」


 僕は検索結果の一番上に出てきた記事をタップした。


「『虫の侵入予防、害虫駆除に! なんでも聞く殺虫スプレー』」

「絶対『対処』のワードに反応しただろ」

「……これ買おうかな」

「僕は害虫じゃないよぉ」

「じゃあやっぱりドッペルゲンガーだろ」

「さあ」

「そうやってはぐらかすところが、怪しいんだって」


 今度は、単に「ドッペルゲンガー」と検索してみる。すると。どうやらドッペルゲンガーは霊魂が肉体から分離したものであるらしい、ということが分かった。それに、ドッペルゲンガーと二回遭遇すると、その人は死ぬと言われているということも。

 

「なるほど。だから僕はキミに触れることができないのかな」

「そういうことかもね」


 “僕”が頷く。その瞬間、僕は目の前の“僕”の胸ぐらを掴んでいた。……いや、掴むそぶりをした、だけで終わったけど。


「おい! 頷いたってことは、お前やっぱりドッペルゲンガーじゃないか!」

「さあね。それに僕は肯定したわけじゃないさ。『かもね』って言ったし!」

「そういう問題じゃないだろ。ってことは……僕はもう一度“僕”に会ってしまうと、死ぬってわけか」

「そうかもね」


 肩を揺らす“僕”。一体何が面白いんだか。


 僕が更になにか言ってやろうと口を開いたとき、“僕”はやんわりと言った。


「それよりさ、今は桜を楽しもうよ」


 僕はその優しい声に、思わず黙った。揃って桜の木を見上げる僕ら。


「うーん……まだつぼみがあるね。来週末には満開かな」

「じゃあちょうど」

 家族で花見をする頃には、爛漫と咲き誇る桜が見られるだろうか。

「雨、降らないと良いね」

「うん」

「だって家族でお花見だもんね」

「うん……って!」


 僕は再び“僕”に向かって叫んだ。


「キミが何故それを知ってるんだよ!」

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